日々の抄

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  この借金をどうするのか

2006年03月31日(金)

 国の債務が800兆円を越えた。これを国民一人当たりにすると636万円になるという。これほど膨大な負債を抱え、いったい誰が、いつ、どのように返済するつもりなのだろうか。歴代の為政者はこの問題を誰も解決することなく現在に至っている。06年度政府予算の一般会計総額は79兆6860億円、前年度当初予算比3.0%減で、新規国債発行額は5年ぶりに30兆円未満となっているというが、はじめから国債に頼るような予算が健全といえるのだろうか。一方で、特別会計は文字通り、一般会計とは別に特定の事業や資金について管理する、いわば「もう一つの財布」として31種類もあり、05年度の歳出総額は、412兆円。一般会計(約82兆円)の約5倍だった。各特別会計間の資金のやり取りなどを除く実質でも205兆円にのぼる。いくら一般会計をスリム化して小さい政府を名乗っても、一方で国民に必ずしも明らかにされてない特別会計の浪費を解決してなくてどうするのか。特別会計予算が役人の莫大な天下り人事にも流用されていることは間違いなさそうだ。消費税を数年の内に20数%にする、老人医療の負担を大きくするなどと弱い者いじめをするようなことが許されていいはずはない。そういう政治をしている人びとを圧倒的多数で支持してきた国民は、正に自分で自分の首を絞めていると言っても過言ではなかろう。ただ、全てを支持して選挙に臨んだのでなく、日本中を吹き抜けていた、郵政改革という風に乗せられた結果と思いたいが、同じ轍は踏むまいと決心している人も少なくはないだろう。だが、最大野党が、メール問題という一人の功名心の強い若者のために、新しい風が吹きそうだった世の中に、「期待できるものはあまりない」などという閉塞感を持たせた罪は重い。

 これほど国家予算が逼迫している中で、驚くべき事態が進みつつある。米軍の世界的規模の軍事再編の中で、在沖縄海兵隊のグアム移転費の2/3を日本に負担を求めているという。日本側は隊員やその家族の住宅や他の基地施設の整備費として計約30億ドルを融資などで負担する案を示しているが、米側は移転費の総額100億ドルのうち75億ドルの負担を改めて求めているというのだ。外相は24日の記者会見や衆院外務委で、日本側負担について「軍属の住居について、ある程度処置をする必要があり、金融、ローンといった手法を考える」と、融資方式で住宅整備費を負担する意向を明らかにしている。日本側は、政府系金融機関を通じ、米企業に出資し、住宅建設と管理を委託して家賃などを元手に利息付きで日本政府に返済する「パブリック・プライベート・パートナーシップ」という仕組みで隊員・家族住宅の建設費用として約25億ドルを融資。同時に他の施設についても約5億ドルを負担する考えを伝えている(3月25日報道)。その後、政府関係者は移転費の総額100億ドルの50%以上は負担できないとの考えを確認しているが、「50%上限負担」を容認したようなもので、政府・与党内の「全体の半分ぐらいが妥協点だ」との見方にも沿っているという。なぜ、何のための出費なのかを国民に明らかにしない間に、金額の取引だけが取りざたされているのは明らかにおかしい。一方で自民党の久間総務会長は3月16日(米側が移転費負担を伝えてから2日後)、「いいチャンスだから、いくらかかったとしてもこの時期にやるべきだ」としているが、あまりにも早計ではないか。国民の莫大な税金を使うという意識をしっかり持って貰いたいものだ。
いずれにせよ、いくら日米安保条約があるといえ、米国の軍隊を移転する費用を、日本に負担させようとする考えが信じられない。75億ドルは約8850億円である。これは国民一人当たり8000円近くの負担である。米軍が日本を軍事力で守ってくれているのだから、当然の負担ということなのか。下賤な話に置き換えれば、みかじめ料なのか。

この話は今回だけのことでなく、歴史的に同じようなことがあったらしい。それは沖縄が米国から返還されることに関わる密約問題である。第二次大戦後米国の施政権下にあった沖縄は、1969年に佐藤栄作首相とニクソン大統領が「核抜き・本土並み返還」で合意し、71年に返還協定の署名、国会承認が行われた。協定では、米軍が占領中に損害を与えた沖縄県民の土地に関する原状回復補償費400万ドルは米側が自発的に支払うと規定され、日本が資産買い取りなどのため米側に支払う3億2000万ドルには含まないことになっていたが、00,02年に公表された米側の公文書に、日本が肩代わりするための密約が存在したことを示す記述がある。つまり、日本政府が「確保する」と当時交渉の実務責任者だった外務省元アメリカ局長吉野文六氏が明言していることが記されており、吉野氏とスナイダー駐日米公使のサインがあった。今年2月、吉野氏がこれを認めている。

 密約問題は71年当時、外務省の電文を入手した毎日新聞記者がその一部を報道し国会でも取り上げられたが、政府は一貫して否定し続けている。今回も、安倍官房長官は「そうした密約はなかったと報告を受けている」、麻生外相も「この話は終わっている。外務省の態度に変化はない」とそろって否定しているが、吉野氏は、密約を否定している政府関係者は、当時沖縄密約に関係していなかった人で事情を知る立場になかった。私は当事者だったと明言。吉野氏によると、報道後に外務省の事務当局者から電話があり、「問い合わせがあったら『密約はない』と否定してほしい」と頼まれた。河野元外相(現衆議院議長)からも「密約は否定してください」と電話で要請され、了承したという。その後記者会見した河野氏は「密約はない」と、歴代外相の答弁を繰り返している。密約を裏付ける別の米公文書が発見された02年には、当時の川口外相が参院外交委員会で「河野元外相が吉野氏に直接確かめた」として、吉野氏の証言を根拠に密約を否定した。今回の新証言で、政府答弁の根拠が失われたことになる。吉野氏は交渉当時の心境について「とにかく協定を批准させることが大事だった。あとは野となれ、という気持ちだった」と振り返った。その後は「意識的に記憶から消そうとした。その方が良心の呵責を覚えなくてすむ」と述べている。また、当時毎日新聞記者だった西山太吉氏が、密約の存在を示唆する外務省の機密電文を女性職員を通じて入手、国家公務員法違反の疑いで逮捕された事件は、問題の真相を「男女の問題」として、国民を欺くすり替えをしてきた罪は重い。協定締結から35年をへて新たに証言したことについては、「400万ドルの肩代わりは『小さな密約』。沖縄をどうするという本質的な議論に移ってほしい、という思いがあった」と明かした。河野氏は、吉野氏への要請について、事務所を通じて「記憶にない」と話しているが信じがたい。更に、吉野氏の証言によると、「土地復元の補償費400万ドルだけが機密でなく、日本が支払うことになった3億2000万ドルの中で「核ぬき」返還の費用の方がずっと大きい。大蔵省が「何とか協定に入れてくれ」と言ってきていた。土地の復元費用、400万ドルは機密のごく一部であり、一番大事な問題は核の撤去費用が入っていることだ。核があったのかどうか誰も知らないし、ましてやそれを撤去したのを見た人はいない。」としている。この密約に関わっていた当時の佐藤首相はノーベル平和賞を受賞しているが、米国の公文書が早くに公になっていたら事態は変わっていたかもしれない。米側の公文書と、日本側担当者の証言が,密約の存在で一致しているのに、政府は未だこれをなぜ認めないのか。

  こうした国民を欺いてきた国会の条約審議権侵害、虚偽公文書作成・同行使などの行為は、最近騒がれているメール問題などとは到底比べようもない背信行為である。
この密約問題と今回の基地移転費負担を重ねて考えてみると、米国は日米安保を前面に出してごり押しをすれば、沖縄返還のときと同じように日本は条件を飲むに違いないと思っているのだろうか。1970年代当時の3億2000万ドルは現在のいくらに匹敵するのだろうか。当時の1ドルは360円だった事は確かだ。日本は独立国であって米国の日本州ではない。

 厚労省の23日発表によると05年賃金構造基本統計調査で、フルタイムで働く一般労働者のうち、正社員の平均賃金(平均40.4歳)が月額31万8500円だったのに対し、短時間パートを除く契約や派遣、嘱託など非正社員は同19万1400円(同42.9歳)で、正社員の60%の水準にすぎないことが判明。社員のほとんどが非正社員という大手企業もあるという。朝日新聞の調査によると、「所得の格差が広がってきている」と思う人は74%(男性が77%で、女性の71%)で、そのうち7割の人が「問題がある」とみている。特に40、50代の男性が共に83%で、最多。また、世帯収入に満足していない人ほど格差拡大を強く感じている。81%の人が「お金に困るかもしれない不安」を感じる一方、「勝ち組」「負け組」に二分する傾向には、抵抗を感じる人が58%いる。同一労働をしていながら賃金が正、非正社員で異なるのはどういうことなのか。企業が、景気や先行きを考えて、働く者を単なる労働力としか考えずに簡単に解雇できるような、働く者にとって不安定な状況を強いている。働く者には家族がいる。誰しも人とし将来の展望を持ってしっかり生活して行きたいと思うだろう。「改革」の名の下で数年が経過したが、果たして安心して、人を信じて真面目に働こうと思い、それが報われる世の中になっているのだろうか。大いに疑問である。差別化が叫ばれている中、経済的な差別化が、いつしか心の平安を乱し、地域に根づいた堅実な生活から離れていきかねない。そうした中で育っている子供たちにいい影響はあるまい。

 フランスでは雇用促進を図るとして、26歳までの労働者を理由なしに解雇できる法律を作ろうとして、ゼネストに近い状態になっている。国民の怒りは尤もである。日本でもニートやアルバイトが多数いることを憂う傾向はますます強くなっている。働こうとしても労働力の安売りを余儀なくされていることも一因だろう。若者はこうしたことに対して積極的に意思表示をしていかなければなるまい。今のままでは、日本の未来に明るい展望が開けているとは思えない。
真面目に努力している者が報われ、安心して生きていける世の中にしていかなければなるまい。国が大きな借財を持つことなく、子や孫に50年後100年後の夢を託していけるような世の中であってほしい。政治家は、800兆円を越える膨大な債務をどうしていこうとしているのか聞きたい。

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