日々の抄

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  ユメのない時代

2006年05月24日(水)

 教員生活を40年近く続けているといろいろな個性を持った卒業生がいる。目の前に幼さの抜けない高校生がやってきて、3年間で肉体的にも精神的にも成長し逞しくなって巣立って行く。およそ1万人の卒業生が私の前を通り過ぎていった。卒業生の職業は証券マン、検事、物理学者、医者、ITエンジニア、教員、役人と千差万別だ。私のホームドクターは卒業生である。

 大学に進学した卒業生の多くは、始め頻繁にひとり暮らしの寂しさや将来の進路の相談などの連絡を寄せてくるが、大学院に進学する者はそれ以降音信不通になる場合が多い。仕事に就いた者は不慣れな時期、頻繁に相談事を連絡してくるが独り立ちできたと思える頃からは年賀状のやりとり程度になる場合が多い。立派に成長して自分の手元から巣立っていった感じがする。最近は電子メールという文明の利器が使えるようになってから、便せんに向かって肩肘張って手紙を書くようなこともなく近況を伝えられるので、以前と少し様変わりしているかもしれない。英国、米国、中国、インドネシアなどからメールが届くようになってから、世界は狭くなった感じがする。卒業して20年も音信のなかった卒業生から「子どもを持ってから、あの時の話が分かった」という便りをある日突然もらった時は、教員をやってきてよかったと思える数少ない瞬間である。

 そんな中で、ひとりの卒業生がミュージシャンとしてCDデビューした。卒業後25年を越えて毎年クラス会で会っている卒業生のひとりである。40歳代後半に入ってからのCDデビューで、それも本業はシステムエンジニアだから変わり種なのかもしれない。平成の小椋佳と言ってもいいだろう。といっても彼は20年前にレコードデビューしているから、全くの新人ではない。シンガーソングライターとして、職業人として現在までに感じ、思ったこと、また家族が増えたことへの喜び、暖かさを、いわば自分史の一断面として歌っている。

 CDタイトルは「ユメのない時代」。サラリーマンの辛さ、悲哀、孤独が切々と歌われている。’Discography’によると、「‘こんなはずじゃない’サラリーマンなら1度はこんな思いに駆り立てられるはずです。辛くても苦しくても同僚や家族にも口に出せない孤独な企業戦士の愚痴を曲にしました。‘そうだ!その通りだ!’と同感してくださる方々の憂さ晴らしとストレス解消にお役に立てれば幸いです。」としている。2曲目の「月曜リフレイン」の歌詞を読むと、同感して頷ける部分が多いと思う。

 彼はジャガイモの芽を食べても、バイクに轢かれてもタイヤの跡が手についただけでなんともない顔をしている頑丈な身体の持ち主だが、その奥にあるナイーブさが感じとれると、仕事に悩んでいる人もホッとできるかもしれない。ウェブページは以下ですので、興味のある方は参考にして下さい。


http://www.shiki20th.com/index2.htm

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