日々の抄

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  そこまでやらせるのか

2006年06月17日(土)

 日本スポーツ振興センターの00年度の調査では、小学生の16%、中学生の20%が朝食を食べていないという。また、平成12年度の国民栄養調査によると朝食の欠食率は男子の場合、20歳代が31%、30歳代が20%、15〜19歳が13%、女子の場合20歳代が16%、15〜19歳が9%という。きちんとした朝食をとることが肉体的、精神的に重要であることは知られていることだが、朝食抜きで一日が始まればすっきりと目が覚めることなく、腹に力が入らない状態で、いらいらした状態になるのは当然のことである。

小学生といえど、朝食の習慣がない状態で授業に望めば、集中力を欠き、健全な精神状態でいられるはずがない。朝食を摂れない理由はいろいろあるだろうが、一番大きな理由として考えられるのは、親の生活習慣だろう。前の晩、就寝時間が遅いこと、就寝前に夜食を摂れば胃の中に食物が消化されない状態で熟睡は望めないし、気持ちのいい目覚めはありえない。親が遊びたいがために、深夜に街中を幼児をつれて徘徊している姿が見られると聞く。

 そんな子供たちのために学校で朝食を食べされる学校が出てきたと聞いて驚かされた。岡山県の小学校では1時間目の後にヨーグルトやチーズ、牛乳など10種類の中から、自分が食べたいものを選べるような「朝食」が出されているという。自治体が1200万円の予算を組んで対応しているという。通学距離が長いなどの地域の事情もあるようだが、朝食の欠食によって「空腹で勉強に集中できない」ことへの対応策というが、親の子どもに対する責任はどこにあるのか、学校がそこまでやる必要があるのかという議論が出てきて当然である。高知県の中学校では月に1回1時間目の休み時間に、「おにぎりとみそ汁つけもの」の朝食を出しているという。朝食を摂ることが有効であることを教えるため、親の意識改革のためというが、飽食が語られて久しくない時代に、こんなことまで学校にやらせている親はどう思っているのだろうか。

20歳代の朝食の欠食習慣がいつから始まっているかについて、平成9年度の国民栄養調査によると小学生から4.6%、中学・高校からが28.1%、高校卒業頃からが33.9%、20歳代が33.4%という。朝飯を食べずにいい仕事ができるはずがない。

こんな状態が続けば、子供たちに落ち着きがなくなり、集中力・持続力に欠け、自己抑制がしにくくなって問題行動を起こすことにつながりかねない。「学級担任が通常の手法で問題解決できない状況」を基準にした3月末の埼玉県の調査によると、学級崩壊が過去最多の97校112学級という。児童の私語、出歩きなどで授業が成り立たない状態が、教職経験が30年を越えるベテラン教員ですら対応できない状態が日常化しているという。「学校とはかくあるべし」という姿が変貌し、従前の指導が成り立たない厳しい現実がある。家庭で最低限子どもにしなければならないことは、キチンとした食生活をして子どもの身体的状態を健全にすること、集団生活は不自由なことが多く自分の思うようにならないのは仕方ないこと、などをしっかり教えることだろう。

24時間営業の店舗が増えていることが、一見便利そうでいて日本人の生活を狂わせていると思えてならない。営業成績を上げるための苦肉の策かもしれないが、大人も「ガマン」することを忘れ、いつでもどこでも自分の都合のいいことを期待することに慣れすぎているのではないか。夜になれば商店が閉まるなら「自分で」間に合うように努力すればいいだけのことだ。寝る時間を勝手放題にしていればメラトニン分泌障害が起こって夜になっても寝ることができなくなって治療が必要になってくるように、日常的な便利さが本来持っている人間としての機能を失わせているのではないか。朝飯を食べないこともその一つだ。

親は子に対して、動物としての人間の機能を失わせることをしてはならない。人間としての知性と社会人としての基本を子にしっかり躾なければならない。そのためには、親がしっかりすべしだ。なんでもかんでも学校と先生に頼り切って、不都合があるとすぐに「学校の責任だ、教育委員会に言いつけるぞ」などという愚かなことを考えないことだ。まずは子に対して恥ずかしくない親であれば、授業中歩きまわる子どもが教員の指導力不足だなどと言わないだろう。また、腹を減らした子どもは激減するに違いない。

 朝食の欠食対策で一番簡単なことは、「腹が減ったから目が覚める」状態にすることだ。

[参考] 文科省 平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査による、朝食の有無と学力の関係の資料(下図参照)によると、小学5年生、中学2年生の国語、社会、数学・算数、理科、英語のいずれも朝食を摂っている児童の学力が高いことを示している。


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