日々の抄

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  何かおかしくないか

2006年09月04日(月)

  最近の社会現象でおかしいと思うことが多い。そのいくつかを挙げてみる。
その1。甲子園球児達がアメリカで試合をやっている。高校関係者のひとりとしての素朴な感想としては、「新学期がとっくに始まっているのに授業はどうなっているんだい」というもの。スキー、スケート選手が冬季には殆ど登校せずに、皆勤賞で卒業する者もいると聞くが、少し違うのではないか。ところで、その甲子園球児の報道について。第1戦でのこと。「ハンカチ王子は4回を投げ8奪三振、苫小牧の田中投手は最終回1イニングを完璧に投げて勝利した!」との報道があったが、試合は特別ルールで7回戦だったと聞くが、残りの2イニングを誰が投げてどういう投球だったのか、ほとんどのマスコミは伝えてない。注目の選手だからといって贔屓目に見ても、野球は個人競技ではないし、日本を代表して対戦しているのだから、他の選手の報道もしないのはおかしいのではないか。あまりにも2投手の報道に偏っていすぎないか。ハンカチ王子が、「これからは普通にやっていきた」といみじくも語っている。彼は正常な感覚の持ち主である。特別扱いして持ち上げ、具合が悪くなるとこき下ろすという、マスコミの手に乗ることはない。注目されているから、あのような報道は当然だと考える向きもあるかも知れないが、視聴者が興味を持っていれば2投手の活躍ぶりを、報道から読み取ればいいのであって、「視聴者が望んでいる内容だから特別扱いする」と考えるのはおこがましい。甲子園球児の中で、成績を上げられなくても、目立たないがひたむきに頑張ってきた選手は沢山いたはずだ。そうした選手を掘り起こして報道すれば、これから後に続く選手の励みになることは間違いないだろう。今の世の中は「結果を出せなくても頑張ってきた」人びとの姿を見せることが大事なのではないか。
 ハンカチ王子のひたむきな発言を聞くと、1歳違いで大言壮語を重ね不遜な態度を続ける世界チャンピオンと比べ、「ハンカチ王子、このまま頑張れよ」と思わずにいられない。ハンカチ王子は早実の選手ではあるが、同時に地元群馬のヒーローで、子ども達の憧れの的でもある。

その2。米エネルギー省国家核安全保障局は8月30日、ネバダ州の地下実験場で未臨界核実験を実施した、と発表。実験は今年2月以来で半年ぶり。通算では23回目。同局は「実験は成功した」としている。「ユニコーン」と名付けられた実験は、米ロスアラモス国立研究所が担当し、深さ約300メートルの縦穴の底で実施された。未臨界核実験に対しては、96年の国連総会で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反するなどとして国際的な批判も強い。「米国の核兵器の安全性と信頼性を維持するため」実施されたと伝えられているが、核兵器のどこが安全なのか。縦坑方式をとったのは宇宙からの偵察を困難にするためとの推測もあるが、後ろめたいことはしないことだ。米国の良心はどこにあるのか。
米国はすべての核実験を禁じた同条約に署名しながら、いまだに批准していない。米国は97年7月に最初の未臨界核実験を実施。ブッシュ政権下では今回が10回目だ。その一方で、NPT(核兵器の不拡散に関する条約)に加盟しているイランの、原子力発電所及び核関連施設で濃縮ウランの製造について国連決議を促すなどブレーキをかけている。その一方で米国はインド、パキスタンの核開発は容認している。北朝鮮の核実験が取りざたされている中、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の国々は他国の核保有、核開発について云々する資格があるのか。全世界で核兵器保有を放棄すべきであることは言うまでもないが、自国で世界最大の核兵器を保有している米国が他国に注文をつける資格はない。日本のように核を保有しない国のみが発言の権利を有するはずはないか。「お前の国は危ない国だから核を持つな」などと言い出す為政者の気が知れない。唯一の被爆国として、平和団体でなく日本政府が核実験に抗議するべきではないのか。

その3。自民党総裁選が間もなく行われるが、各地で行われている総裁候補者の討論会は安倍、谷垣、麻生の3氏だけ取り上げられている。後継者はいつの間にか安倍氏に決まっているかのような世の中の流れが何故できているのか不思議でならない。総裁候補者には他に意欲を示している人がいるはずだが、はじめから選外の扱いを受けているのはおかしいし、マスコミの報道も公正な扱いではない。総裁選の公示は9月8日のはずだ。
小泉首相は「一番気心知れているのは安倍さん」として支持をにじませている。安倍氏は「小泉首相の改革路線を踏襲する姿勢を強調」しているようだが、6月の自民党都道府県連幹部への一斉取材によると、「次の総裁は小泉首相の構造改革路線をどうすべきか」という質問で、用意した四つの選択肢のうち、「継承・発展すべきだ」と答えた人はゼロ。「地方に配慮して微修正すべきだ」が32人、「大幅に見直すべきだ」が12人で、合わせて9割以上が修正を求める結果となったている。「微修正」を求めた人は、構造改革が景気回復につながったことを認めながらも、「交付税削減などの急激な改革は地方へのひずみをもたらしている」、「このまま構造改革を進めると格差がさらに広がる恐れがある」などを理由に挙げている。「大幅な見直し」を求めた人は、首相の改革路線を正面から批判。「公共工事を減らすことが果たしてよいことか」、「こうした路線が継承されれば地方にとって厳しい時代が続く」と指摘していることにどう答えるのか。
安倍氏が語る「集団的自衛権の行使」、「改憲」など国の根幹に関わる問題を含んでいる中で「美しい国、日本」などと耳障りのいい言葉では国民が納得しない。政策を語るとき、何故それが必要なのか、その結果具体的に国民生活はどう変わるかを明示すべきである。「美しい国」の「美しい」とは何を差すのか、どういう状態を美しいと考えているのかを聞きたい。米国の海外出兵のたびに自衛隊が他国に出兵するなどという、今までには考えられないことが起こらないこと願うのみである。また、自民党中川秀直政調会長の8月26日の青森県弘前市内での講演で、安倍氏就任を念頭に、「首相指名では賛成するが、実際の政策に反対ということは許されない」、「公約をリーダーが実行し、経済財政諮問会議や党が支える。個別議員の拒否権発動はあり得ない」と強調。小泉流の「郵政解散」と同様、総裁選で支持する以上首相への造反は許されないとの考えを示していることも注目しないわけに行かない。

 いずれも、誰かが時代の流れを作って流布されてことに対して、羊のような国民はこれから起こるべき事に想像を巡らすことなく、「そんなものらしいよ。みんながそう言ってるよ」などと考えているとすれば、これから起こることは自分たちの責任で負わなければなるまい。いまの日本の国の流れに限りない危うさが感じられてならないのは私だけだろうか。

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