日々の抄

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  草津夏期国際音楽フェスティヴァルで

2004年8月30日(月)

 恒例の草津夏期国際音楽フェスティヴァルのクローズコンサートに行った。

 1980年、ヴァイオリニストとして著名な豊田耕児氏を音楽監督、音楽評論家遠山一行氏を実行委員長に始められた夏期2週間にわたる音楽アカデミーが開催されたが、これだけの演奏家が来て音楽会を聴けないのは残念ということで始められたという。七年前までのコンサートは天狗山レストハウス(スキー場のレストランを改造した建物)で行なわれてきたが、六年前本格的なコンサートホールが「草津音楽の森」に建設された。今回で25回目であるが著名な音楽家が多数参加している。ことしはエルンスト・ヘフリガーが参加した。

 毎年テーマを決めているが、今年は「バッハからベートーヴェンへ」であった。クローズコンサートの曲目は、
F.メンデルスゾーン:ソナタ 第6番 作品36-6、F.メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20、C.P.シュターミツ:ヴィオラ協奏曲 第1番 ニ長調 作品1、W.A.モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.Anh.9であった。

 第1曲のメンデルスゾーンのパイプオルガンは、緑に囲まれた音楽堂に相応しい響きであった。このオルガンは関係者の念願叶って設置されたものだそうだが、冬季は氷点下20度にもなる草津の地で、いい音を引き続けるための保守は大変だろう。つぎのシュターミッツのセルジュ・コローのビオラはよかった。潤いのあるホール一杯に響きわたる音を体で感じることができた。ときどき、外国から来たと思われるヴァイオリニストがソリストの小さな音のつまずきがあると、隣の演奏者に目配せしてにんまりしているのは興に水を差すものだった。演奏が終わってからの拍手はいつまでも終わろうとはしなかった。

 休憩時間には庭先でマイスターブラスカルテットによるアルプホルンの演奏があった。緑の香りが漂う夜霧の中の演奏を聴きながら、この楽器がこうした自然の中からはじまったと思うこと実感であった。ザワザワと演奏の感想を語り合う賑やかさの中に、見覚えのある紳士がいた。ノーベル賞を受賞された小柴氏であった。後で聞くと、彼は昨年もこの時期に草津に逗留してこのコンサートに来ているという。

 草津夏期国際音楽フェスティヴァルがはじまった年に私の父が亡くなっている。チェロを終生の趣味としてこよなく音楽を好んだ父が存命なら、父とともに草津の涼しさ、澄んだ空気、素晴らしい音楽を楽しんでもらえたのにと思った。さぞかし喜んでくれたと思う父が生まれ、今年で100年になる。草津は雨であった。
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