日々の抄

       目次    


  ママの味はどこに行く

2007年01月16日(火)

「ミルキーはママの味」のコピーが懐かしい。

 あの甘美な飴は、ただの飴ではなかった。幼い頃の思い出が詰まっていると感じている人は少なくないだろう。その製造元が多くの人に失望を与えている。15日の段階で明らかにされている事は次の通りだ。
菓子メーカー「不二家」が昨年10月から12月にかけて、消費期限が切れた牛乳を使ったシュークリームを関東や福島、新潟、静岡の一都九県に出荷していた。同社は事実を把握した後も、公表や回収の呼びかけをしなかった。報道で表面化したことを受けて11日に記者会見し、当面、全国約800の直営店・フランチャイズ店で洋菓子販売を休止すると発表している。
 消費期限切れの牛乳を使った事がはじめに発覚したのは埼玉工場で(その後札幌でも同様のことがあったという)、この工場を含む全国5工場の操業を品質管理が徹底できたとみなすまで休止する。埼玉工場は昨年12月8日、消費期限が前日に切れた牛乳60キロを使ってシュークリーム2000個を製造、出荷。これ以前にも昨年10〜11月に消費期限が一日切れた牛乳を7回使用し、計約1万6000個のシュークリームが出荷されたという。 埼玉工場の原料仕込み担当者が「11月7日消費期限の牛乳4ロット(60リットル)分を、11月8日に使用した」と証言している。さらに担当者(=定年後にパート社員として再雇用された元菓子職人が原料の仕込みを担当)は、「捨てると怒られる。においをかいで品質的に問題ないと判断したら使っている」と、これまでにも期限切れ牛乳を使っていたことを認めている。期限切れ牛乳の使用が常態化していた疑いがある。
 また、2〜3年前にも同工場が消費期限の切れた卵を使ったシュークリームを出荷していたことも分かっている。過去7年間に、消費期限や賞味期限を過ぎた原料を使用した事例が18件としているが、今後新たな事実が発覚する可能性はあるだろう。

 消費期限切れ牛乳の使用は、同社幹部らで構成する推進プロジェクトの委員会に「委員会外秘」とする文書で報告されていた。原料の仕込み担当者の「牛乳は、ほか(の部署)で余ったら、ここに持ってくる」などの証言のほか、「不祥事は内部告発に端を発する」などと社内への口止めを求めたとみられる記述もあった。
 さらに最近の企業不祥事の例として雪印乳業の食中毒事件の経緯についての説明もあり、不二家が期限切れ牛乳使用を認識していたおり、「委員会外秘」の報告では、埼玉工場で2003年から昨年にかけて、毎月数匹から数十匹のネズミが捕獲されていたことも判明。同社は「数年前から専門業者に駆除や環境調査を依頼し、外部からの侵入経路も突き止め、数を減らしている」と説明している。
  また、昨年6月8日に製造した「シューロール」の細菌検査で、食品衛生法が定める基準の約10倍、同社の自主基準の約100倍にあたる細菌数を検出。再検査のあと廃棄しなければならなかったが、検査結果の連絡が不徹底だったため、113本が出荷されたという。ほかにも、アップルパイ製造の際に賞味期限が過ぎた材料を使ったことなども明らかにした。

 牛乳の安全チェックを個人が、それも「においをかぐ」という、いかにも原始的な方法で行っていることが認められていることがおかしい。複数でチェックする体制に切り替えたのは問題発覚後。そもそも、「牛乳が余ることは想定していなかった」といっているが、牛乳の廃棄方法の規定さえ存在しなかった。
  期限切れ牛乳問題をどうやら一個人の責任に転嫁したがっているとしか聞こえてこない。他の部署の余った牛乳を押しつけられ、捨てると怒られるというのだから、会社という組織が永年勤め上げてきたOBを人柱にして一件落着させようというのか。これは企業の明らかな「いじめ」ではないか。プロ意識を持つ菓子職人なら、好んで期限切れのケーキを作るとは思えない。上司からの命令があっり、組織が認めていたことではないのか。

 そもそもネズミがチョロチョロ走っていたらしい工場で、期限切れの食材を使い、基準の100倍もの細菌を含んだ食品を、自社の製品として出荷し、「不二家が」そんな危険なことをするはずがないと固く信じていた消費者を見事に裏切っていたことは、社長が辞任して解決できる問題ではあるまい。ましてや、事態が判明しているにもかかわらず、多量の消費があったクリスマスの後に発表するという卑怯、狡猾な行為は、国民に食品を提供するに値しない。責任者は事態を解決してから責任をとるべきであり、なんら解決の方法を示すことなく退陣するのは責任回避としか思えない。
 同社は昨年11月には事実を把握していて、社内の対策会議で「マスコミに発覚すれば雪印乳業の二の舞いとなる」という文書が配られており、社長の「ことの重大さを伝えるための表現で、隠蔽するつもりはなかった」という釈明に納得する人が何人いるだろうか。

 製造日報はあったが、製品ごとの使用原料の記録の詳細は残っていなかった、というような安全管理がなされていなかったことが今まで発覚しなかったのは何故か。今回は内部告発によってことが発覚したと思われるが、それがなかったら今も細菌だらけのケーキを食べさせられていたのか。安全対策に対する行政の責任はないのか。ISO認定はこんな程度のものなのか。行政は事が発覚してから「けしからん」と言うのでなく、事前に抜きうち検査、指導する責任はないのか。

 不二家が理解しておかなければならないことは、同社への信頼を挽回できないほど裏切ったこと、会社の指示に従ってにまじめに仕事をしている従業員に罪はないこと、同社製品を扱っている商店、特にフランチャイズ店は決定的打撃を受けていることなどの責任が多大であることだ。老舗としての奢りがあったことは間違いあるまい。現段階で関係者が、すべて事実を語っているとは思えない。

 また、「ばれなければ、いいや」が発覚したことは残念の一語だが、不二家以外の菓子メーカーを含めた食品企業は同様のことはないのだろうか。私は全面的に信用できないでいる。
「ぺこちゃん」を泣かせないためには、ひとが口にするものを作っているということを思っているだけでいい。ぺこちゃんのお父さんは自分の子どもに偽造ケーキを食べさせられますか。

<前                            目次                            次>