嘘つきはいい加減にするべしと心得よ |
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2007年01月27日(土) 「納豆がない」。数日前まで、いつものスーパーマーケットの店頭に納豆が消えていた。フジテレビの「あるある大事典U!」で納豆を食べるとダイエット効果がある、という今月初めの放映で、日本中の納豆が品薄になったという。買えなくなった時に「1週間もすれば元通りになる。日本人の飽きっぽさから、今までも同じようなことがあったから・・・」と考えていたが、意外や意外。放映内容が殆どが捏造だったという。そして番組が消滅したという。余程のことがなければ番組がなくなるなどということは起こらないだろう。その余程の内容はひどいものだった。 1月7日の「食べてヤセる!!!食材Xの新事実」は、米国の大学教授の研究をもとに、「DHEA」と呼ばれるホルモンにダイエット効果があるとの説を紹介し、納豆などに含まれるイソフラボンがその原料になるとして、20〜50代の被験者8人に朝晩2回、納豆を食べ続けさせた結果、2週間後に最高で3.4キロ減など全員の体重が減ったと報告していた。しかし同局によると、『(1)米国のダイエット研究として紹介した内容は別の大学教授の研究だった (2)米国の大学教授の発言として日本語訳で紹介したコメントは実際には発言していなかった (3)DHEAの量を調べるために被験者から血液を採取したものの、検査はしていなかった (4)被験者がやせたことを示すのに別人の写真を使用 (5)被験者の一部の中性脂肪値が正常値になったとしたが測定せず (6)納豆を朝2パックまとめて食べた場合と、朝晩1パックずつ食べた場合の比較で、被験者の血中イソフラボン濃度の結果を捏造 (7)許可を得ずグラフを引用していた』などの偽情報を尤もらしく報道し、TV報道を信じ切っている日本人の多くが、スーパーなどで買い求めた結果、納豆の品薄状態が続いた。なにせ、納豆を食べれば痩せるというお手軽なダイエットと聞けば食べないわけにいかなかったのだろう。それも、かき混ぜてから20分放置しないといけないことになっていたから手の込んだ詐欺行為である。ここまで偽装すると善意の国民を欺く立派な犯罪行為である。(大分以前、北大路魯山人が同じようにかき混ぜる回数を記録に残していたと聞いたことがある) この番組はセンセーショナルな前フリを置き、時に不安を煽り、最後に「・・・・・とおもうべし」と偉そうにまとめていた。例えば、「O脚は人生を台無しにしてしまう」、「ルイボスティーは、未知なる可能性を秘めたお茶だったのです!」、「未知の成分が含まれた納豆は全世界が注目すると心得よ」、「反射神経の鋭い身体は疲れのない筋肉をもつことが大切と肝に銘じよ」、「20世紀はビタミンの世紀、21世紀はアミノ酸の世紀と言われています」、「プラスイオンが多い現代社会こそ、こまめにマイナスイオンを取る工夫が大切と心得よ」、「マイナスイオンを積極的に取り入れ静電気が起こす身体への害を未然に防ぐべし」などというものだった。「未知の・・・・」などと聞くと「そうか。新しい何かがあるのか・・・・」などと期待してしまうが、何のことはない「分からない」ことを分かった風にいっているだけである。内容にいちいちケチをつけるとキリがないのでやめておくが、この種の「健康番組」で怪しいのは、僅か数人のデータから全てが保証されるような押しつけをしていることだ。科学的に説明しているフリをしているが、強引に結論を導き出すハッタリばかり目につく大道芸のようなものだ。個体差も考えず、都合のいいデータだけを見せ、その筋の権威と思わせる大学教授、研究者のコメントを聞かせる。内容が限りなく実験結果と異なっても視聴者を騙せると思っていたらしい。例えば、静電気についての番組で『身体が酸性化しますと、体内のイオンバランスが崩れまして、体内のマイナスイオンが不足しますと、電気を寄せてしまいますね』などと言っていたが、血液のどのデータを見てもPHが7より小さいものはない。どこが酸性なんだ、と思った人は多かったに違いないが、そもそもこの番組は、「科学的なふりをした娯楽番組」なのだという程度に思って見るべきだったのか。 過去に放映されたものの中には、「顔ヤセの科学」の番組で、「実験日数の虚偽」や番組では放送されていない「矯正器具の使用」による編集作業による「顔画像の修正」が行われていたとの指摘がマスコミからあったが、問題はないとしてきた。NHKにも似た番組があるが、これも僅かなデータでガッテンさせようとしていることに無理を感じている。たとえば、「リンゴを食べると、このような効果がある」とした場合、リンゴ以外の食物の影響はどうなっているのか、被験者が何人でどれほどの期間検証したのか、などが明らかにされなければ信じるわけにはいかない。この場合、リンゴ以外のファクターの影響を明らかにしなければ信頼するわけに行かない。場合によっては番組にとって多少不都合な結果を示した方がむしろ、信憑性があるように感じるのは不思議なものだ。 番組に捏造があったのは論外だが、その後の対応にいくつかの問題を感じないわけにいかない。 ひとつは番組を作成した関西テレビの対応である。事が発覚した直後、「番組内容を取り消さないのか」と問われると、千草社長は表情をこわばらせながらも「納豆のダイエット効果は学説で裏付けられている。番組の根幹部分で違っていたかは調査中だ」と説明するにとどまっていたが、「架空のデータや無関係の写真を使っており明らかに捏造ではないか」と問われて初めて「個々のデータについては捏造があった」と認めている。これだけの偽造をうまく言い訳して逃れようとする狡猾さ、傲慢さは報道に関わる資格を失っている。関西テレビは社会正義について云々する資格は当分持てないだろう。往生際が悪すぎるし、嘘で固めれば何とかなると思っていたらのなら、視聴者をなめた、思い上がった考えといわざるを得ない。 その後、関係者に役職解除、減俸、譴責などの処分が行われたが、いずれも時間が経過すればすぐに解消できるものである。社内で反省していることを示しているだけで、社会に対して責任をとっているとは思えない。役職を失っても、ほとぼりが冷めれば戻れるし、減俸も後に加算すれば大きな損害は生じまい。譴責に至っては、「気を付けろよ」と言うだけでも済むことだ。譴責は、辞書によると法律用語では「官吏に対する最も軽い懲戒処分。職務上の義務違反に対し、将来を戒めること。法令上は戒告と同じ」とあるから、多少の違和感が残る。 もうひとつは出演者、放映したテレビ局である。フジテレビで放映されたが、関西テレビまたはその子会社が製作したとしても視聴者はフジテレビを信じて見ているのだから、フジテレビからなんらかのコメントがあってしかるべきではないか。謝罪報道は、関西テレビの社長だけだったのではないか。フジテレビは恰も被害者のように思っているのではないか。「あるある大事典U!」の過去の内容に捏造はなかったのか。フジテレビが責任を感じるなら過去の番組内容の検証をし、報告すべきである。まったく捏造がなかったとは到底思えないが。関西テレビが製作した番組だからと、責任回避をするなら、自局が製作した番組以外は放映すべきではない。 また出演者のひとりである志村けんはブログに「残念です。今回あるある大事典の件で各方面に迷惑掛けてしまいすいませんでした。今日新聞で番組打ち切りを知りました。正式にはまだ本人には何も聞かされていません。私らはスタッフの作った台本に沿って番組を進行しているのでこんなことになるとは。逆にスタッフに裏切られた感じです。視聴率欲しさに捏造はいけませんね。云々」としている。視聴者はまさか志村が捏造番組に出ているなどとは思わず信じていたのだから、謝罪はよしとしても、結果的には捏造内容を報道することに参画させられていたのだから、単に被害者だったということは素直に聞けない。 また一番不思議なのは司会者の堺正章から何のコメントが発表されていないことである。放映中は彼が番組の内容を牽引し、「この番組だけが知っていることをお知らせします・・・・」としていたことを考えると、沈黙したままでは済まないだろう。このまま黙っているなら、今後の活動に少なからぬ影響が出ることは必至である。 番組が捏造されてなくても納豆の効能はいろいろ知られている。骨粗しょう症の予防に効くビタミンK2が含まれていること、抗菌性が強く0-157を抑制するジピコリン酸も含まれていること、血栓溶解作用(血栓溶解酵素=ナットウキナーゼ)があるなどである。一方で過摂取についての注意も要する。農水省HPのQ&Aによると(1)食品安全委員会は、「大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方」の中で、「日常の食生活に加えて、特定保健用食品により摂取する大豆イソフラボンの摂取量が、大豆イソフラボンアグリコンとして30mg/日の範囲に収まるように適切にコントロールを行うことができるのであれば、安全性上の問題はないものと考えられる。」としている。また、「特定保健用食品(トクホ)の安全性を評価する食品安全委員会の評価について(朝日新聞(2006/3/12)報道)」によると、『納豆1パック(50g)にアグリコン37mg、豆腐一丁(300g)には61mg含まれます。95%の人が、1日にこれらの大豆食品から摂取しているアグリコンは70mg以下であり、健康被害は出ていない。一方、閉経後の女性が150mgのイソフラボンの錠剤を5年間毎日飲んだところ、飲まない人に比べて子宮内膜症になる人が多かったというイタリアの報告がある。個人差も考慮し、アグリコンは1日70〜75mgを日常の食生活の上限とした。また、内分泌の調査から、追加摂取の上限を1日30mgとした。』とある。食べ過ぎなければ問題なしということだ。ただ、心臓病で投薬されている場合は要注意である。(その、とうふや納豆の原料になる食用大豆の自給率が25%という) 今回の捏造事件発覚の発端は週刊朝日の記者が、件の番組を見て、内容を訝って関西テレビに質問状を送ったためという。悪知恵が働けば、それらしい偽装回答をしておけばバレなかったのだろうが、それぞれの質問項目に答えることなく「すべて事実に基づいて報道している云々」としたから、これは怪しいと思ったという。関係者は多少なりとも良心の呵責に刈られるところがあったのだろう。 今回中止になった番組を含め、報道番組でのコメントで「・・・・・と言われている」、「・・・・・らしい」、「・・・・かもしれない」の発言を多数耳にする。これらの言葉が付けられた発言は、「私が言っているのではない。断言などしてない」といつでも逃げられる体制を作っているとしか思えない。自分の発言に自信がなかったり、内容に責任を持つつもりのない人物は公衆の面前に立つべきではない。 今回の一件で教えられることは「人の言うことは簡単に信じるな」「TVや新聞の報道内容を疑え」「楽をしてスマートになるなどという虫のいいことを考えるな」という事か。騙されて腹を立てた人が多かったようだが、幸いにして実害があったとの報道はなかった。怪しい番組が一つ消えただけでもよしとすべきか。 今回のデータ捏造について、総務省によると、『放送法では「報道は事実をまげない」と定めており、同省は調査を経て、関西テレビに対して厳重注意と再発防止に向けた体制づくりを求める行政指導を行う見通しだが、放送法では、テレビ局などが放送内容に真実でない事項を見つけた場合には、訂正または取り消しの放送をしなければならないと定めている。しかし、「訂正放送は、間違った放送で権利侵害した場合を想定しており、今回のケースは該当しないだろう」とみている。』というから、何かの権利侵害がなければ法的手段がとれないのか。これほどインチキをやっておきながら何ら法的な処分を受けないのは納得できない。権利侵害がなければ捏造は咎められないというのか。今後も実害がない程度の捏造なら処分されないから、視聴率を稼げる内容を面白おかしくした番組を作ろう、バレたら「関係者が短期間だけ減俸、役職外しをすればいい」ということになるだろう。そうなればTVの「情報番組など単なる娯楽番組だと思って見るべし」ということになるだろう。 余談になるが、毎朝やっている星占いの内容がチャンネルでまったく違っていたり、血液型占いなどというものがあったり、医学的根拠もなしに「あんたは来年死ぬ」などと偉そうに語っている女性が頻繁に登場している。そうした怪しい報道を公共の電波に乗せていいのか。『根拠もなしに不安をかき立てたる番組はいい加減にせよと思うべし』である。 |
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