日々の抄

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  何をそんなに急ぐのか

2007年01月29日(月)

 高校野球の人気者斉藤佑ちゃんは相変わらずの人気のようで、早大に入学が決まったこともあり六大学関係者は人気復活に期待しているらしい。北京オリンピック参加さえも囁かれ、連日のように彼の行動が報道されている。最近は早大の練習に参加し、はじめてキャッチャーを座らせてピッチングした、と報道されていた。 そんなニュースを聞いていて、ふとおかしな事に気づかされた。相手のキャッチャーは大学の先輩ではないか。いくら人気者といえ、マスコミが「座らせて云々」は誠に不遜な気配がある。大学の先輩はすでにユーチャンの脇役なのか。マスコミは表現に気配りが足らない。相手のキャッチャーに失礼ではないか。そんなことよりもっと大事なことに気づいた。つまり、ユーチャンはまだ高校生なのだ。彼は休日でもない日に、高校の授業を受けることなく、なぜ入学してもいない大学で練習しなければならないのか。

 高校生のスキー、スケートの選手は冬の時期はほとんど学校で授業を受けていない者がいる。私のかつても教え子もそうだった。
 野球選手の場合、毎年のようにこの時期は、高校生、大学生がその進路先であるチームで練習していることが報じられている。当然学校に行ってないから欠席数が増えて卒業条件を充たさないことになりそうだが、「公欠」という名目で、登校しなくても出席扱いにしてもらえる便利な扱いがある。だが、程度問題である。スキー、スケートの場合、試合があるなら仕方ないが練習の全てを公欠していいものか。だが、野球の場合、高校生がなぜ授業日に大学に出向いて「練習」をしなければならないのか。
 未履修が大問題になっている昨今だが、彼らも実質的には未履修になる可能性がある。日米高校対抗野球のときも夏休み明けの授業日だった。大学生になってから練習をはじめると何か不都合でもあるのか。関係者の中ではたぶんあるのだろうが、高校生の立場であることを尊重されてないことは確かだ。駒大付属高の田中選手も楽天で練習をしているようだが、高校生がプロ野球で早期に練習に参加させることが「教育的」なのか。体力作りは高校でもできるはずだ。彼らは「社会体験実習」という扱いで「公欠」扱いされているらしい。マスコミに報道されてない他の選手も多数いるだろう。

 大学、プロ野球関係者が、前途ある若者の立場に立って彼らのことを考えているとは思えない。何をそんなに急いでいるのか。まじめに授業日を外してやっていたのでは時間が不足して間に合わないというなら、本末転倒である。彼らは立派な野球選手だろうが、その前にひとりの高校生なのではないか。不祥事があると事細かに処分や指導をしている高野連は、こうしたことを黙認しているのか。奨励しているのか。教育的立場で考えれば、関係する選手を擁している高校の校長は、授業日のそうした大学、プロ野球での練習に参加させることを拒否すべきであり、招じている関係者はそうすべきではない。名を残したプロ野球選手のOBが社会的問題を起こしていることが報じられるが、「特別扱いされてきた」ことが、社会人としての常識を失なわせていることにつながってないか。つい最近も現役のプロ野球選手が道路交通法違反で新聞を賑わしていた。

 同じようなことは他の競技にもいろいろあるようだ。例えば、卓球の愛ちゃんは高校生の立場で中国のチームに属し、試合に沢山出ているし、青森の高校生が頻繁にマスコミに顔を出している。あどけない彼女の活躍は励まされるものがあるが、それとこれとは別問題だ。彼女は高校3年間の内、いったい何日登校したのか知りたいところだ。仮に「公欠」扱いを受けて卒業しても、実質的に必要な教科科目を履修してないことが、後の彼女に不自由な思いにつながらないか。中国語が話せるようになったからいいじゃないかというのは別問題である。また、出席すべしとすることに関して、病弱で欠席がちな生徒が、やっとの思いで無理を押して登校している場合もあることを思えば、他の生徒との不公平感はないのか。それとも、学校を世に知らしめている功によりお構いなしということか。他の教科の授業内容が、野球、卓球で代替えできるとは到底思えない。

 彼らは得意な競技があるために、授業を受ける権利を侵害されていないのだろうか。

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