日々の抄

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  発した言葉は消えない

2007年01月30日(火)

 柳沢厚労相が27日、松江市で開かれた自民県議の後援会の集会で、年金や福祉、医療の展望について約30分間講演した中で『「機械と言って申し訳ないけど」「機械と言ってごめんなさいね」などの言葉を入れながら、「15〜50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」などと述べた』という。会場では発言について異論はなく、主催者からの訂正などもなかったという。

 とんでもない女性蔑視、差別の暴言である。閣僚、それも言うに事欠いて 日本国の未来に深刻な影響を与えている少子化を所轄する厚労相の発言は見逃すわけに行かない。口が滑った、言葉が足らなかったという程度の問題ではない。

 このとんでもない発言に女性議員をはじめ抗議が相次いでいる。
高市早苗・内閣府特命担当相
「率直に言うと、機械や装置という言葉は不適切だと思う」。「私自身、過去に病気をして、子供を授かりにくい、というより授かれない。私は機械なら不良品かな、ということになる。同じ事情を抱える人、健康でも授かれない人もいる。女性が頑張っても少子化はなくならない」。
社民党福島みずほ氏
「絶対に言ってはいけない最低の発言で、辞任を要求する。女性は年金の財源を産むための機械ではない。発言は『国のために子供を産め』と言ったようなものだ」
民主・小宮山洋子氏
「『私の女性観とは違う』と言うが、思っていなければ出ないので、これが本音だ」
共産・吉川春子氏
「女性たちは傷ついている。少子化問題に一番かかわる厚労大臣として不適格だ」
野田聖子氏(04年、不妊治療の経験をつづった著書「私は、産みたい」を出版)
 「言葉を大切にするというのは閣僚の大切な要素。軽率で不適切で、大きな過ちだ。心得違いをされていたのだと思う」
自民・猪口邦子氏(前少子化・男女共同参画担当相)
 「出産は命がけで尊いこと。女性としては誰でも違和感を受けたのではないか。適切でない表現であることは明らかで、残念だ」

 同様の抗議は男性議員からも上がっている。国民新党の亀井久興幹事長は「女性が安心して子どもを産み、育てる環境をいかにつくるかが厚労相の仕事。そのことを棚に上げて、女性にその責任があるかのような言い方をしたとも言える。国会で責任を追及したい」。自民党の中川昭一政調会長も「極めて不適当。私から見てもびっくりするような言葉だ。少子化対策とかあり、担当大臣の発言はマイナスだ」

 民主・共産・社民の野党3党の女性議員16人が29日夕、共同で記者会見し、柳沢氏の辞任を求めていく考えを強調。直前に柳沢氏に辞任要求書を手渡したが、男性議員も巻き込み、国会論戦を通じて責任を追及するという。
塩崎官房長官は「発言は不適切だが、直ちに訂正された。検討会議の主要メンバーとしてやってもらう」とかばった。首相も29日夜、記者団に「本来、大変高い見識をもった方ですし、今後職務に専念して頂くことで本人の人柄についてもだんだん国民の皆さまに理解して頂けるだろう」としている。

 一度発した言葉はいくら陳謝、訂正しても消えない。また、厚労相の軽率な発言が多くの女性を傷つけたことも消えない。その発言が、国会運営に支障があるから、「大変高い見識」を持っている人だからなどと釈明していることは思い違いである。直ちに訂正したから許されるとなどと考えるなら、国民をなめているとしか思えない。大変高い見識を持っている人物が公衆の面前であのような発言をするはずがない。発言がまずいのでなく、そういう考えを持っていることが厚労相ひいては国会議員としての品格と資格を持ち合わせていないということではないか。
 あのような発言をしている人物を擁護し「今後職務に専念して頂くことで本人の人柄についてもだんだん国民の皆さまに理解して頂けるだろう」などと考えている首相の発想は信じがたい。女性蔑視をしている人物が少子化を論じ職務に専念することを望まない。賢明な人間は出処進退を誤らないはずだ。

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