日々の抄

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  命に関わる偽装だ

2007年02月02日(金)

 複数の電力会社のダム検査データに不正が見つかったことから、各社に調査を命じたことをきっかけにして、東京電力(東電)の原子力発電所の2002年以前のデータ改ざんが明らかになってきた。関連法令に違反する恐れがあるものが、柏崎刈羽に加え福島第1(福島県大熊町)、福島第2(同県楢葉町)の計3カ所の原発で1977年から24件延べ199件あったと1月31日同社が発表した。社内規定違反も多数に上りそうだという。
 東電では2002年に、炉心隔壁や配管のトラブル隠し、原子炉格納容器の気密性を実際より高く見せる不正操作が明らかになり、福島第1原発1号機は1年間の運転停止が科せられ、社長らが引責辞任しており、それまでの不正については明らかになっていたはずである。だが、不正は1977年から火力発電所の一部では現在まで続き、ほとんどが2002年のトラブル隠し発覚後の総点検で見過ごされていたことになる。

どのような不正が行われていたか。
 福島にある原発のデータ改ざんは第1原発1、4号機で確認されていたが、最終的に第2原発4号機を除く10基中9基で改ざんがあった。
福島第一原子力発電所
 OBを含めた関係者96人への聞き取りや保管資料で調査を行い、改ざんは1985年度以降に行われていた。把握していても「安全上問題ない」と放置されたり、東電が改ざん自体を把握していないケースもあったという。
 1号機での冷却用海水の温度データ改ざんは、法定の定期検査に円滑に合格するため行われていたことが分かっている。改ざんは1985年に始まり、社内調査で発覚したが黙認されてきた。一方、他の2つのプラントでも海水温度データ改ざんの疑いが発覚、同社が調査を急いでいる。冷却用海水は海からの取水口と、タービンを回した蒸気を冷却して水に戻す復水器の入り口・出口、海への放水口の計4カ所で温度が計測される。海流の状況や海水配管の使用度合いによって、測定時にそれぞれの個所で温度に違いが出るのが一般的だという。ところが、1985年と1988年当時の同発電所技術課長は13カ月に1度の割合で行われる1号機の定期検査で、復水器出入り口と取・放水口で温度差が出ることや、復水器出入り口の温度差が設計温度である9度と計測されないこと、前回受検時と相違があることを国の検査官に指摘されるのを懸念。質問を逃れ工程を守ってスムーズに検査に合格するため、復水器出入り口の海水温度を調整するよう計算機のプログラムを変更していたという。1993の社内調査で不正が発覚したが、プラント運転の安全性に問題はないことなどから、その後も改ざんが続けられてきた。また、1979〜98年、蒸気の流量を監視し、弁を作動させる装置を不正に設定して検査を受けた。また微量の放射性物質を含んだ水を誤って海中に放出していた。放出した放射能は、原子炉等規制法に基づく規定で1日あたりに放出が認められる量の約10万分の1で、環境に大きな影響はないという。もしその値が偽りだったらどうなるのか。
 同2号機では、中性子検出器を不適切な場所に設置して、検査結果をごまかしていたという。
 同4号機では、取・放水口の温度差を復水器出入り口の設計温度差である8.4度に統一する不正が1984年度から断続的に行われ、計28回にわたり県温排水調査管理委員会に改ざんされたデータを報告してきた。海流などの影響で取・放水口の温度差と設計温度には開きが出ることが多いが、原子力発電部の副長(管理職)が県から説明を求められることを避けるため、下請けの調査コンサルタント会社に改ざんを指示したという。

福島第一以外の原発
 2、6号機では、それぞれ、復水器出入り口の海水温度を下げる改ざんの疑われる操作が行われていた。3、4、5号機で海水温度が仮設された精密温度計の数字に合わせられていたことも判明。東電はそれぞれの案件について調査を進めている。
 同社は福島第二原発でも調査を進める方針。最終的に関係者の処分を検討する。

柏崎刈羽原発
 1号機(沸騰水型軽水炉BWR)では1992年の定期検査の際、緊急炉心冷却装置・ECCS=(下図<資源エネルギー庁資料より>参照)の一部にあたる残留熱除去冷却系ポンプが、検査前日の夕方に故障したが、国の検査官がポンプそのものでなく中央制御室のスイッチの表示しか見ないことを逆手に取り、スイッチが入ってもポンプが動かない試験用のモードで検査を受け、合格させたという(検査には当時・通産省の検査官も立ち会っていたが、現場確認は検査項目に含まれておらず、信号のみで合格したという)。修理が間に合わないまま、検査の4日後に原子炉を起動。2日間そのまま運転した。この運転は、原子炉等規制法に基づく保安規定違反の疑いがあるという。
 東電は「原子炉は他の機器で冷却でき、安全上の問題はなかった」とするが、「機器を正しく整備したうえで原子炉を起動するという原則から逸脱していた」と認めている。さらに、柏崎刈羽原発1〜3号機では、1994〜98年にかけ、緊急時に原子炉の蒸気を遮断する弁の漏えい率の検査で、漏れを測定したように見せかけ、虚偽の数値を国に報告。元弁を閉めて圧力が下がらないよう操作する不正が行われていた。法定検査には当たらないが、柏崎刈羽原発から排出される放射性物質の測定値を東電社内で偽装していた。
 また、放射能の測定値を改ざんしていた。1995〜97年ごろ、排気筒から出る放射性ヨウ素の濃度を測る際にヨウ素を捕らえるフィルターを裏返しにして放射能の測定値を低くなるようにしていた。1995年5月には、同原発4号機の排気筒から出るガスの放射能の値をコンピューター上で低く上書き。どちらも実際の測定値は国が指針で定めた測定の下限値よりも低く、そのままでも国や県に「検出なし」と報告する値だった。通常は測定限界以下になることが多いので、それに合わせようとしたらしい。
 同7号機は1998年8月〜2001年3月、実在しない「タービン機械式トリップ弁作動トリップ」警報について、実在するかのように検査報告した。
                                     
不正が問題になっている原発は東電だけではなかった。
東北電力
 女川原発1号機で冷却用海水の温度データの数値を改ざん。その理由について、「環境アセスメントに記載された事項を順守すべきだという社内的見解と、復水器の逆洗という運用管理上の要求の間で食い違いが生じたため、現場サイドでプログラム変更を行った」と説明している。常務と女川原発所長らは「復水器の目詰まりを防ぐために一日一度、流れを逆流させる逆洗を実施する。その際には環境アセスメントに記載した温度を必ず超過する。七度を超えてはならないとする社内的見解と、逆洗という運転管理上の要求の矛盾を抱えた現場がプログラム変更を行った」と改ざん理由を説明。プログラムの改ざんに当たっては「復水器出入り口海水温度が7度を超えるのは逆洗時に限定されること。逆洗時を除けば7度以下に収まっており、復水器の健全性は確認できることから性能上の記録としては、逆洗時のデータを排除してもよいと考えたことが分かった」と話している。
 女川町長は「発生する事象について何を基準に判断するかというと、それはデータだ。データの改ざんは一番問題。温排水問題は漁民の間でも関心事。一部で7度を超えることもあるのなら、当初から公表しておけば何も問題にならなかった」と話している。

原発以外では
 国交省は1月30日、東京電力のデータ改ざん問題に関連して、塩原発電所の八汐、蛇尾川ダムで新たに三件の不正が見つかったと発表。不正の一つは、八汐ダムで行われた無許可工事。1996年ごろから貯水の地盤浸透を止めるための工事を、河川法に定められた許可を得ないで実施。浸透が激しい部分にセメントを流し込むなどした。残る二件は八汐、蛇尾川ダムの流入水量データ改ざん。不正はいずれも、同省が東電から提出された報告を精査した際に発覚。東電側は「隠す意図はなかった」としている。不正の発覚を受けて同省は31日、河川法に基づき検査官ら四人が八汐ダムの立ち入り検査を実施、書類やダムの現状確認などを行う。また東電に対し2月14日までに、再発防止策などの提出を求めている。
 東扇島火力発電所(川崎市)、袖ケ浦(千葉県袖ケ浦市)の二火力発電所でも定期検査などで1990年以降の計17回、発電機の出力を偽って国に報告した。

 なぜこれほど大量のデタラメ、不正を見落としていたのか。電力会社の提出したデータを鵜呑みにしていなかったのか。当時・通産省の立ち会いがあったにもかかわらず不正が起こっているのはどういうことか。関係者は「少しでも早く検査を無事に終わらせたいというのがあった」、「法定検査の際、国に対して見栄えをよくするようにしていた」としているが、問題は姑息なデータの辻褄合わせが重大な事故に結びつく可能性があったことである。事が発覚して、謝罪し関係者が処分されても、それが今後生かされ、国民が電力会社に対して信頼を回復し安心であると思えるような改善がなければ何の意味もない。事故が起こった後にいくら謝罪しても何の足しにならないことを理解すべきである。
 このような、途方もないような不正が行われている限り、2002年以降は不正がないといっても、安易に信用することはできない。スリーマイル島、チェルノブイリ原発での事故がいかに人類の危機につながってきたか、関係者は思いを巡らすことができないのか。原発の事故が、国民の安全を脅かし、危険に陥れる可能性を持っていることを理解していない者、企業に身を任せるわけにはいかない。原子力が、エネルギー源として不可欠なものなら、国は事の深刻さを十分理解し、万全の査察、検査を行わなければならない。バケツの中で核反応を起こしかけていたことが、この国で起こっていたことを忘れていないのだろうか。

 また、「バレなければいいや」という偽装が組織的に行われていた。原子力に関わる企業、所轄官庁は、原子力に対する不安を煽ったことを省みて、職業人としての自覚を再確認しなければなるまい。それができないなら、原子力に関わる資格がない。こんなことが横行している日本は、なんと落ちぶれた国になってしまったのだろうか。
 今回の偽装は国民に対する重大な背信である。危ない原発が自宅の近くにあったらどうしますか。

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