日々の抄

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 地球が危ない

2007年02月04日(日)

   地球温暖化に関する研究を集約する国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC=Intergovernmental Panel on Climate Change)」の第1作業部会は2日、パリで第4次報告書を発表した。
  2001年に発表された第3次評価報告書による「極端な現象については」以下の通りであった。
極端な現象について,観測された変化と予測される変化の信頼度の見積もり
現象の変化 観測された変化の信頼度
(20世紀後半)
ほとんどすべての陸域で最高気温が上昇し,暑い日が増加する 可能性が高い
ほとんどすべての陸域で最低気温が上昇し,寒い日,霜が降りる日が減少する 可能性がかなり高い
大部分の陸域で気温の日較差が縮小する 可能性がかなり高い
陸域で熱指数(heat index)が大きくなる 多くの地域で可能性が高い
強い降水現象が増加する 北半球の中・高緯度の陸域の多くで可能性が高い
夏の大陸で乾燥しやすくなり,干ばつの危険性が増加する 可能性が高い地域もある
熱帯低気圧の最大風速が増大する 入手可能なわずかな解析では観測されていない
熱帯低気圧に伴う平均降水量と最大降水量が増加する 評価するに十分なデータが存在しない

第4次報告書では状況がさらに深刻化していることを浮き彫りにしている。
  今回発表された報告書の主な結論の要旨は以下の通り。(下のグラフは気象庁資料による)
● 気候システムに温暖化が起こっていると断定するとともに、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因とほぼ断定
  ○「気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲な融解、世界平均海面水位上昇が観測されていることから今や明白。」 (第3次評価報告書の「新しい事実に照らすと、残された不確実性を考慮しても、過去50年間に観測された温暖化の大部分は,温室効果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い」より踏み込んだ表現)
 ○現在の二酸化炭素及びメタンの大気中濃度は過去65万年間の自然変動の範囲をはるかに超えている。
  ○温室効果ガスの増加は、化石燃料の使用、農業及び土地利用の変化といった人間活動による排出が主な要因。
  ○1750年以降の人間活動(温室効果ガス、エーロゾル、対流圏オゾン、ハロカーボン類、アルベドの変化等)が温暖化の効果をもたらしたことには高い信頼性がある。(太陽放射の変動がもたらす効果よりはるかに大きい)
  ○二酸化炭素による放射強制力(地球温暖化を引き起こす効果)は、1995から2005年にかけて20%増加。これは、少なくとも過去200年間のあらゆる10年間における最大の変化。
● 20世紀後半の北半球の平均気温は、過去1300年間の内で最も高温で、最近12年(1995〜2006年)のうち、1996年を除く11年の世界の地上気温は、1850年以降で最も温暖な12年の中に入る。
● 過去100年に、世界平均気温が長期的に0.74℃(1906〜2005年)上昇。最近50年間の長期傾向は、過去100 年のほぼ2倍。1850年から1899 年の期間に比べて、2001〜2005年の世界平均気温は0.76[0.57〜0.95]℃上昇。
● 1980年から1999年までに比べ、21世紀末(2090年から2099年)の平均気温上昇は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、約1.8℃(1.1℃〜2.9℃)である。一方、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では約4.0℃(2.4℃〜6.4℃)と予測
(第3次評価報告書ではシナリオを区別せず1.4〜5.8℃)
● 1980年から1999年までに比べ、21世紀末(2090年から2099年)の平均海面水位上昇は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、18cm〜38cmである一方、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では26cm〜59cm と予測。
(第3次評価報告書(9〜88cm)より不確実性減少)
● 2030年までは、社会シナリオによらず10年当たり 0.2℃の昇温を予測(新見解)。
● 熱帯低気圧の強度は強まると予測。
● 積雪面積や極域の海氷は縮小。北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予測もある(新見解)。
● 大気中の二酸化炭素濃度上昇により、海洋の酸性化が進むと予測(新見解)。
● 温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋への取り込みが減少するため、人為起源排出の大気中への残留分が増加する傾向がある(新見解)。

  上記要旨はいずれも深刻な内容だが、特に注意すべき点はアンダーライン部分である。つまり、「地球温暖化は明らかで、その原因が人間社会がもたらしている。何らかの対策をすぐに講じないと、今世紀末には最大平均気温が6.4℃上昇するおそれが強い。その結果海水面水位が59cm上昇する可能性が高い」という事である。
 気象庁によると2006年の日本の均気温は平年より 0.44℃高かったという。0.44℃だけの上昇で異常なほどの暖冬を実感しているのに、もし6.4℃高かったら予想できない問題が発生することは間違いない。
  平均の海抜高度が2メートル、最も高いところでも高度5メートルしかないキリバス国や海抜の低い島を擁する国では事態は深刻である。インドネシアのウィトゥラル環境担当相は「2030年までに、海水位の上昇でわが国の約1万8000余りの島のうち2000が水没する」と警告を発している。海水位の上昇による被害予測では、海水位が現在より1メートル上昇すると被害を受ける危険のある地域は2.7倍に膨れあがり、410万人が被害を受ける可能性が指摘されている。
 世界文化遺産の広島県・宮島の厳島神社やベネチアも水没の危機に瀕している。
 ただ、「環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、18cm〜38cm」である。このまま事態を放置すれば、この世に居住できない人々がいるのである。だが、人類が努力すればそれを回避できる可能性を少しだけ残している。

  さらに、どのようなことが予想できるか。身近な問題を考えてみると、「熱中症患者が増え、コメの収穫量は減少、農業や漁業など多方面で深刻な影響が生じることが考えられる。国立環境研究所などの予測では「今世紀末、日本では最高気温30度以上の真夏日の日数(2006年は東京で38日)が2〜3倍に増え、エルニーニョ現象がより顕著になり、6〜8月には豪雨になる頻度が増し、異常気象がますます深刻化」としている。その結果、「コシヒカリの栽培では、苗をこれまでと同時期に植えた場合、気温の高まりで50年後に東北地方南部から南の多くの地域で、約10%収穫量が減る。生育も不十分となり、米粒が乳白色化して、品質が下がる。九州北部から中部の水田では、太陽熱で蒸発する水分量が増加、慢性的な水不足が予測される」。「ミカンの生産適地は北上し、冷涼な気候向きのトマトの糖度が下がる」。米国・南オレゴン大の研究チームは「今後50年で、世界のワイン名産地の気温は平均2度上昇する」と指摘し、イタリアでは気温の上昇に対応するため、南部の品種を従来より北方で栽培しようという試みが始まっている。日本のブドウの栽培も、甲府盆地から冷涼な長野県に移りつつあるという。
  また、膨大なエネルギー消費と開発を進めている中国は、北京まで迫っている砂漠化をどう思っているのだろうか。

  また「1940年代に長崎、大阪などで流行したデング熱を媒介する蚊の一種ヒトスジシマカはすでに2005年、岩手、秋田県で確認されているが、その生息域が一層、北に広がる」という。4年前の夏、宮崎県の生後間もない牛の血液から見つかった熱帯アフリカに起源を持つ「シャモンダウイルス」や長崎県で発見された「ピートンウイルス」、岡山で発見された「サシュペリウイルス」など、その血を吸った吸血昆虫のヌカカが感染を拡大させるという。いずれも熱帯に生息するが、温暖化によって生息域が北上するおそれがある。マラリア蚊も同様である。

 仮に日本沿岸で海面が1メートル上昇した場合、「砂浜の面積の90%が消失。渡り鳥の餌場となっている干潟消失。東京、大阪湾などでは高潮対策に7兆8000億円を要する」。海水温が2度前後上昇しただけでも、「サンマ、イワシ、サバなどの漁場が北上。トラフグを養殖できる海域は縮小。大型クラゲによる被害がより拡大する恐れがある」という。冬の平均気温が3度上昇すれば北海道を除く本州のほとんどのスキー場で積雪が減り、スキー客は3割以上減少し経済的打撃を受ける。
 温暖化ガスの二酸化炭素が海に溶けて海水の酸性化が進み、全長2000キロにおよぶオーストラリア北東沖の最大のサンゴ礁グレートバリアリーフが石灰化、ウミガメや熱帯魚など1500種類に及ぶ海洋生物の生息地が失われる危険性があり、観光客減少による経済的損失は大きい。
  日本を含む東アジアで降雨量が増加し、梅雨の期間が長くなる。特に西日本で夏季の降雨量は増える。一方で、雨が降らない日が続くこともあり、深刻な水不足になる恐れもある。このほか、北極海の海氷は21世紀後半の晩夏にはほぼ消滅。猛暑や熱波などの異常気象が増加し、台風やハリケーンが大型化するとの予測も提示されている。

  地球を滅ばさぬ為にどうすればいいか。誰しも自分が生きている間に災禍は及ばないから心配ない、などと考えるかもしれないが、事態はかなり深刻である。目の前のことだけでなく、自分が海抜0メートルの場所に居住していると考えてみることである。今後は、省エネに転換した持続発展型の社会、非化石エネルギーを重視した社会を実現できれば、まだ辛うじて間に合う。しかし限りなく危ない状況である。精一杯努力しても間に合わないこともある。努力を始めてからその効果が現れるまでに相当の時間を要することを忘れてはなるまい。
 地上で最も温暖化に寄与している米国は京都議定書にも署名せず、エネルギーを貪っている。その米国が、自国の営利だけを求めず、人類の将来に思いを巡らし、率先垂範して他国にも働きかけることが現在求められているのではないか。大統領選対策のために省エネルギーを訴えるなどとは思い違いも甚だしい。汚しすぎた大地にひれ伏し、懺悔のための努力を惜しまないことだ。そうしない限り、毎年何回も「カトリーナ」の訪問を受けることになるだろう。
  人類が便利さを求めすぎず、「地球は有限の住処」と考えるための、目の前ですぐにできる省エネルギーを実行していくことが、自ら安心して住める地球を作る第一歩である。生き急ぐことをしなければ、便利さを求めずとも済むのではないか。

 人類滅亡までの時間を示す「終末時計」の残り時間は5分である。

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