心配を払拭することが先決だ |
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2007年02月10日(土) サーフィンで知られる人口約3500人の高知県安芸郡東洋町が1月25日、高レベル放射性廃棄物最終処分場の受け入れを申し出た。経済的危機に貧し、第2の夕張になることをおそれ、「国のエネルギー政策に貢献できる可能性と、交付金を活用し町の浮揚を図る絶好の機会と考える」という町長の一存で決まった応募だったという。町議会、町民は猛反発。1月15日までに、住民60%を超える2179人と町外の約2800人の建設反対署名を集め、町議会に提出。住民有志が1月29に対し、町長に対し「放射性廃棄物の持ち込みを拒否する条例」の制定を目指し、条例制定請求書を提出。町議会は2月9日、町長の辞職勧告決議を賛成多数で可決している。 地元商工会会長によると「原発やから怖いという反対派の気持ちも分かる。だけど、町の財政は来年度の予算は組めるが次は分からないというぐらい逼迫している。やり方がこすいかもしれないけれど、精密調査まで勉強して、その間に出る補助金で町を立て直しながら、最終的には住民投票で決めればいい」と代弁している。国は候補地に対し、当初六年間の文献・概要調査の段階では年約二億一千万円の金額。最近、この額が新年度から十億円に跳ね上がった。大まかな計算で約六十億円。周辺自治体に一定額を振り分けるとして、総額で約四十五億円が町の入る。予算規模約二十億円。しかも、調査後の住民投票で、建設が否決されれば誘致は中止し、交付金だけ得ることになり町の財政は息を吹き替えすことができる、という腹づもりも見え隠れする。 だが、「ここにもってきてほしいもんなんているもんか。自然が汚染され人間がのうなってどうする。貧しくともこれまで暮らしてこれた。いかに貧乏でもこの自然が一番」という町民の郷土愛と素朴な「核」に対する不安は当然のことである。 税金が使われる交付税がこのような使われ方をすることが許されるのか大いなる疑念が湧いてくる。同様のことを他の自治体でやっていけば、放射性廃棄物最終処分場建設が延ばされ続けるだけである。 9日午後、この日新設された同町議会の高レベル放射性廃棄物等調査特別委員会に出席した経産省資源エネルギー庁職員らは、文献調査後に県知事や地元首長の意見を聞く場合、町民の多数が反対でも「住民の意向を斟酌した首長や知事の意見で判断する。(賛否の)数は判断材料ではない」とし、あくまで首長や知事の意見を重視する考えを示している。高レベル放射性廃棄物の事業主体は「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づく認可法人・原子力発電環境整備機構(NUMO=Niclear WasteManagement Organization of Japan)である。NUMOは、最終処分施設の建設地を選定する段階で、「県知事や首長の意見を聞き、どちらかが反対意思を示せば、その後の調査には進まない」と説明。同趣旨の文書を昨年12月、同町に示している。 橋本大二郎高知県知事と飯泉嘉門徳島県知事は6日、NUMOと経産省資源エネルギー庁を訪れ、調査を始めないよう申し入れた。橋本知事は「地域の同意もなく県知事も明確に反対している中、こんなやり方が正しいと思うのか。交付金で(市町村を)つるやり方はいいかげんにやめてほしい。今のような対応なら断固として受け入れられない」と強い調子で申請受理の撤回を求めた。飯泉知事も「東洋町と地続きである本県の海部郡など、県をまたいだ隣接地域の意見にも耳を傾け、受理を白紙に戻してほしい。混乱を広げる前に、速やかに大きな決断をしていただきたい」と要請した。 上述のNUMOと経産省資源エネルギー庁職員らの見解からすると、知事が反対しているのだから東洋町に高レベル放射性廃棄物最終処分場を建設することは断念すべき事になる。 NUMOによると高レベル放射性廃棄物最終処分場について 『・エネルギー資源の乏しい日本では、原子力発電の使用済燃料を再処理し、ウランとプルトニウムを取り出して再利用する原子燃料サイクルを基本政策としている。 ・ 使用済燃料の約95%は再利用できるが、約5%はリサイクルできない高レベル放射性廃棄物として残る。 ・ 再処理した後に出る高レベル放射性廃棄物は液体のため、ガラスの原料とともに高温で溶かし合わせ、ステンレス容器に入れて固め化学的に安定なガラス固化体(直径約40cm、高さ約1.3m、重さ約500kgで化学的に安定した物質)にする。 ・ 2005年末までに発生した使用済燃料をすべてガラス固化体にしたとすると、約19,300本になる。今後、年間約1,100〜1,500本相当発生すると予想され、2020年ごろには4万本になる見通しである。 ・ 現在、日本国内では、約1,400本のガラス固化体が冷却のため貯蔵管理され、再処理をしていない残りの使用済燃料は、各原子力発電所や日本原燃の貯蔵プールで保管されている。 ・ 長期に安定している深い地下への地層処分は、将来世代への負担をかけない方法として世界各国でも共通した考え方である。 ・ 深い地下は安定しているが、日本の地質環境の特徴である火山や活断層と地下水の影響を考えておく必要がある。 ・ 地下水については、放射性物質が溶け出すのを防ぐために、ガラス固化体、金属製容器、粘土から成る人工のバリアを配置する。 ・ 地上施設は、ガラス固化体を金属製容器へ封入する施設やトンネルを掘った土を仮置きする場所等で、1km2程度が必要で、地下施設は、区画を区切り、一区画づつトンネルを掘りながらガラス固化体を埋設していく。広さは延べ10km2程度である。 ・ 処分事業は長期にわたるため、一気に進めるのではなく、段階ごとに地域の意向を確認し、ご理解を得ながら進め、事業に関するすべての情報を正確に、かつ、わかりやすく公開、提供する。 ・ 2002年12月に公募を開始。最終処分施設建設地の選定は三段階の調査を踏まえて進めていく。 ・ 平成10年代後半頃(2007年頃)に第一段階の概要調査地区を選定、概要調査地区で、ボーリング等の調査を行い、平成20年代前半頃(2010年頃)に第二段階の精密調査地区を選定、地下施設を設置して地層を直接調査し、平成30年代後半頃(2025年頃)に第三段階の最終処分施設建設地を選定する。 ・ 建設を開始してから約10年後の平成40年代後半頃(2035年頃)から約50年かけてガラス固化体を埋設し(操業)、処分場を閉鎖する。 ・ 建設・操業に伴う経済効果等: <県内>(2025-2084年)生産誘発効果:約1.7兆円(約275億円/年)、雇用誘発効果:述べ約13万人(約2200人/年)、固定資産税収:約1600億円(約27億円/年)、<国の交付金制度>文献調査段階:年2.1億円、概要調査段階:年20億円(総限度額70億円)である。』 としている。(原子力発電環境整備機構ホームページによる) NUMOは処分場について「ガラスで固めた放射性廃棄物は20秒で致死量の高レベルだが、これを鉄、粘土、岩盤と幾重ものバリアーで覆い、地震などの影響を受けにくい地下300メートル以上の施設で処分する。万一、放射能が漏れても、地上に達するのは80万年後で、その量も自然界での被ばく量より少ない」と安全性を強調している。だが、使用済み燃料に含まれるウラン235の半減期(元の量の半分になる時間)は7.13×108年、プルトニウム239の半減期は2.44×104年と桁違いに長い。核に対する漠然とした不安が多くの人にあることは否めない。また、なぜこのような施設が必要なのか、日本が原子をエネルギー資源すれば必然的に核廃棄物がどれほと出てくるのか。それが安全と考えられる量に達するのに気の遠くなるような時間を要するのかを、どれだけの国民が知っているだろうか。原子力発電所のトラブル、データ捏造も含めて、行政がいくら「安全だ」と言っても、『いくら町民の多数が反対でも首長や知事の意見で判断する。(町民の)賛否の数は判断材料ではない」』などと発言している限り、札びらで地元民の頬を叩いているやり方と思われても仕方ない。また、文献調査段階の風評被害を懸念する指摘に、関係者は「調査段階で放射性廃棄物が持ち込まれることはない。単なるデマでしかなく、デマを流した者に損害賠償を請求するべきだ」としているが、そのような誤解が生じないための事前の努力を最大限しているといえるのか。役人が地元民に対して、高い位置から、「交付金をやるから、ごちゃごちゃいわないでお国のために役立て」と聞こえてくるような高慢な物言いはやめることだ。 多くの国民は核やエネルギーについてどれほど学習する機会があっただろうか。高校の物理の履修率ですら、列島改造の時代に比べ格段に低下している。いい点がとれたかでなく、学んだことがあることが大事なのだ。放射性廃棄物処理施設について、何が問題で、どれほど安全で、どこに危険性があるのかを知らしめる一層の努力を国は進めるべきである。心配を払拭することが先決ではないか。 地元民の「一度進むと止められない。勉強する、勉強すると言いながら進んでいく。子や孫になんであんとき止めてくれなかったと言われるようになりたくない」の言葉は重い。 |
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