日々の抄

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  命を預かっている責任をとれ

2007年02月17日(土)

 ガス湯沸かし器やストーブなどガス器具の一酸化炭素中毒事故が、統計のある04年までの5年間に全国で223件、死者は34人にのぼることが経産省の原子力安全・保安院の調べで分かった。
パロマ工業製のガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒で犠牲になった家族は「息子だけでなく亡くなった21人の無念を晴らして」と訴えている。パロマ工業や親会社パロマ本社に今年になってやっと警視庁の強制捜査が入った。一連の事故は1985年から2005年にかけ28件発生し、21が死亡した。うち20人については業務上過失致死罪の時効になっている。唯一時効が成立していない2005年11月東京都内の大学一年の男性が不正改造された湯沸かし器を使って中毒死、兄も入院した事件への捜査である。亡くなって10年後の昨年2月、心不全とされていた死因が一酸化炭素中毒と分かり、警視庁を動かした。原因は不正改造とされている。事故機種は基板のはんだ割れが起き、安全装置が働き燃焼が止まる不具合が多発していた。安全装置が効かないように不正に改造され、不完全燃焼が起こってもガスが止まらず中毒死をまねいたとみられるが、不正改造がなぜ放置されていたかに大きな問題がある。1987年1月に苫小牧市で死亡事故が起きた時点で、当時パロマ工業などの社長だった現パロマ会長らにも伝えられたという。警視庁は早い段階で、幹部が不正改造の危険性を認識していたとみている。ところが、事故の公表や製品回収などの抜本的対策は講じられていなかった。素早い公表などをしていれば、無駄死にしなくて済んだ人は多かったのではないか。
 改造は、排気ファンに不具合が生じたときにガスの供給を遮断する安全装置の配線を入れ替える細工。部品交換をしなくても取りあえず湯を沸かせるが、安全装置は働かなくなる。1988年には「(改造で)事故が発生した場合には責任を問われる恐れがある」と、危機感をにじませた注意喚起の文書を全国の営業所に配っていたが、新聞、テレビなどで消費者に危険性を周知徹底することはなかった。
 経産省は事故報告書を総点検し、20年間に事故が17件起きていることをやっとつかんだ。うち5件には「改造された跡がある」とあった。今月、警視庁から指摘を受けるまで、報告書は「放置」。調査担当の同省原子力安全・保安院の幹部は「省内で情報の共有がスムーズに行われず、見過ごす結果になった」と話しているが、死亡者が出ているにも関わらず公にしなかった重大な責任は問われなければならない。
「メーカーからの指示なしで勝手にそういうこと(改造)をするとは考えにくい」とメーカーの関与への疑いや、「そもそも危険な改造ができてしまうような製品は設計上の欠陥ではないのか」とする専門家の指摘にパロマはどう答えるのだろうか。

 パロマの事故が報道されている中、リンナイ製湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故も起こっている。経産省は2000年以降、事故情報を把握しながら「機器固有の問題ではない」として公表していなかった。3件目のCO中毒死亡事故が神奈川県内で発生したことを受けて、過去の事故をはじめて公表しているが、事前に事故情報が公にされていれば被害拡大を防げた可能性が指摘されている。経産省は、2004年12月までに計4件の事故があったことを把握していたが、同省は、パロマ工業製品によるCO中毒事故の教訓を踏まえ、迅速に情報を公開する方針を昨年8月に打ち出しているものの、リンナイ製の事故では、ガス機器固有の問題ではなく「換気が不十分であるなど使用上の誤りである可能性が高い」との認識から、公表しなかった。
 甘利明経済産業相は2月13日の会見で、「誤使用による事故も(その時点で)公表すべきだったかもしれない」と述べ、過去の事故の公表遅れを認めているが、パロマ工業製品によるCO中毒事故への対応の遅れにより被害の拡大を食い止めることができなかった。ガス事業法省令を「改正、製品の欠陥による事故だけでなく、使い方を誤った事故についても、今年からメーカー名や機種名の公表」を始めたというが、公表したのは、1月以降に事故報告があったものだけだった。
リンナイ製は、パロマ製と異なり、使用時の換気が不可欠で、設置時の説明や取扱説明書、機器に張ったシールなどにより、ユーザーに換気するよう呼び掛けていたというが、繰り返し使用しているうちにバーナーのそばにある、不完全燃焼を感知するセンサーに、すすが付着し、正常に作動しなくなる可能性が分かっているという。
 リンナイの内藤弘康社長は10日未明の記者会見で「(欠陥がないとの)見方が甘かったことになるかもしれない」と陳謝する一方、換気扇を回さないケースを「まれな状況」と説明した。同社は2004年までの4件の事故を把握した際も、社内会議で「ユーザー側の使い方に問題がある」と結論付け、注意喚起のステッカーを目立たせただけで回収などの措置を取らなかった。注意書きで十分と判断したメーカーに対し、消費者からは「命にかかわる商品。もっと周知して」という声が上がっている。

 湯沸かし器は暖かい湯を使うために利用する器具である。冬の朝、寒いから湯沸かし器の湯を使おうとするとき、わざわざ換気扇を回して意図的に寒い思いをするのだろうか。これほどの犠牲者が出ているのに、不正改造があったから、利用法が誤っていたからと弁明することで事が解決すると思っていたら、命に直結するかもしれない器具を製造しているメーカーとしてはあまりに無責任であり、事故を認知してからの対応は甘すぎる。同時に、それを管轄する経産省の対応には重大な瑕疵があると言わざるを得ない。経産省は国民の生命安全についてどう考えているのか問いたい。関係者の責任を問われて当然である。「今後注意を喚起します。事故の経験を生かします」などと言っても、犠牲になった人は生き返らない。
 乗用車には法定点検が義務つけられている。整備不備があれば人命に直結するからである。ガス器具も同様の定期点検を義務づける必要があるのではないか。

 今の日本は、「広告などで周知している有名メーカーの製品だから安心」という考えは捨て去らなければならないようだ。命に関わる製品を世に出しているメーカーは企業のメンツや自己防衛を考える前に、「もしこの製品を使っているのが自分の家族だったら」と思う想像力を働かせて作っているのだろうか。犠牲者の家族の無念さを考えたことがあるのだろうか。「危険かもしれない」と知ったとき、直ちに公にする。それが責任ある企業のとるべき責務である。
 2年も前から「21年〜15年前のFF式石油暖房機を探しています」と広告を続けているメーカーには消費者に対する誠意が見られる。見習うべしである。

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