日々の抄

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  汝殺める事勿れ

2007年02月26日(月)

 国連などが非人道的だと批判しているクラスター爆弾をめぐり、ノルウェーが呼びかけた国際会議は23日「オスロ宣言」(2008年末までに使用、製造、移動、備蓄を禁止する条約の締結を目指す)を採択し閉幕した。参加した49カ国と国連機関、非政府組織(NGO)のうち日本、ポーランド、ルーマニアの3カ国だけが宣言に加わらない意向を表明。日本代表の平野隆一・外務省通常兵器室長は「議論の進め方、方向性について立場を決める状況にない。今回は主に人道的な観点だったが、安全保障上の問題について議論することも必要だ」と話している。
 1997年の対人地雷禁止条約に至った「オタワ・プロセス」と同様、意欲のある国々が国連外で軍縮を進める。宣言自体に拘束力はないが、地雷のように軍事大国も意識せざるを得ない枠組みに発展するかが注目される。米国、ロシア、中国は会議に参加していない。宣言には、備蓄している爆弾の廃棄、使用された爆弾の除去のほか、被害者のケアの分野で国際協力する枠組み作りも盛り込まれている。
 クラスター爆弾の一律的禁止に消極的な英、仏、日本などは「禁止するクラスター爆弾の種類の精査が必要」と主張。宣言では対象を「民間人に受け入れがたい苦痛を与えるクラスター爆弾」として具体的な中身は今後の検討に委ね、英、仏は賛成に回っている。当初条約締結までの間、クラスター爆弾の使用・移送を禁じる国内法整備などを検討することも盛り込まれたが見送られた。

クラスター爆弾とは、
本体の親爆弾(長さ2.3メーター、重さ430キロ)から投下された数個から最大約2000個の小さな小爆弾が上空100〜1,000メーターで爆発。それにより、小爆弾中の容器に納められた鉄片が300ぐらいに飛び散って、周辺の車両や兵員等を無差別に破壊する爆弾で、軍事的には広域を制圧。敵の人的被害を計算できる有効な兵器とされ、集束爆弾ともいう。クラスター爆弾の大きな問題点は、その小爆弾の5〜40%が不発弾となって残り、それが、事実上の地雷となって戦闘終了後も民間人を殺傷することにある。「国境なき医師団」は、クラスター爆弾が人々を無差別に殺傷する無差別兵器であり、ジュネーブ協定に触れていると指摘している。また、赤十字国際委員会や各国のNGOは非人道的な兵器だと指摘し、「特定通常兵器使用禁止制限条約」による規制を求め、2003年春からその使用を規制する試みが本格化、特定通常兵器使用禁止・制限条約の締約国会議が2003年に採択した議定書は、不発弾の処理を促している。しかし、米国やロシアなどが反対したため、生産や使用、備蓄を禁止するところまで至ってない。

どの国が保有しているのか
クラスター爆弾の保有国は、日本を含む56カ国。米国や欧州各国、ロシア、中国のほか、アジア、アフリカ、南米の一部など世界の約3割の国が保有しており、実際に爆発する子爆弾の保有総数は、米国だけで約10億個、米国以外の国全体でほぼ同じ規模の数を保有している。
 日本の航空自衛隊が1987〜02年度の16年間で総額約148億円分購入し、現在も数千個を保有していることが2003年4月16日判明している。防衛庁は予算書などで購入を明示しておらず、配備中に国会で保有の是非が質疑されたこともなかったため、国会への報告や情報公開のあり方に問題を提起した。わが国の保有理由は「上陸してきた敵部隊の掃討に使用する」というが、使用した後に「地雷」として、後に国民に被害を与えることは明白で、保有していても意味のない兵器である。

どこで使われたか
 2003年のイラク戦争で米軍が、その危険性を強く認識しながら使用していたことが判明している(毎日新聞調べ)。イラクで使われた1万発を超えるクラスター爆弾の少なくとも2500発以上が、米軍内部で改善や使用削減の必要性が繰り返し指摘されていた。米陸軍第3歩兵師団の会議資料(2003年)によると、同師団はクラスター爆弾を1014発使用。また米空軍はクラスター爆弾などを約1500発使用。国防総省の2004年米議会への報告書によると、いずれも子爆弾の不発率が4〜16%と極めて高いことが判明。これだけでもイラクに不発弾4万〜12万個が残された計算になる。民間団体「イラク・ボディー・カウント」によると、イラクで2003年3月から2005年3月までに不発弾で死亡した市民は389人で「大半はクラスター爆弾が原因」という。
 また湾岸戦争(1991年)で数万発使われ、不発弾で米兵80人が死傷。米陸軍の内部文書(1996年)や国防総省が議会に提出した報告書(2000年)は、クラスター爆弾の攻撃能力を高く評価する一方で、その危険性や改善の必要性を繰り返し強調。「不発弾となる最も大きな危険を引き起こす兵器の使用は徐々に停止しつつある」などと使用削減の方向性を示していた。
 イスラエル軍はレバノン侵攻でクラスター爆弾を使用。2006年9月の国連の調査で、359カ所に投下。10万発以上の不発子爆弾が民間人居住地域にばらまかれている。だが、イスラエルは国際法に従って使用したと主張。イスラエルのレバノン侵攻やイラク戦争によるクラスター爆弾の被害をふまえ、国際的な規制を求める国が増えているが、国連の「特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW)」での議論は進まず、2006年11月の締約国会議でも規制への動きはなかった。
 今回の動きの中心は、ノルウェーのほかアイルランド、ニュージーランド、メキシコ、オーストリアなど。対人地雷禁止条約締結で中心的な役割を果たした国々と重なっている。ノルウェー政府は会議に関心を示したすべての国を受け入れており、英、仏、独などのG8メンバーも参加したが、CCWでの議論を進めるべきだという意見が強く、全面禁止に向けた早急な動きを牽制しているという。

クラスター爆弾よりさらに悍(おぞま)しい兵器に劣化ウラン弾があるが、これについては別の機会に譲ることにする。人が人を殺めることは許されることはできないのではないか。それは、殺められるのが自分であったり家族なら到底許されないと思うからである。しかし、殺人してはならないという自明の理が自明ではないことに慄然とする。いかなる理由があるとて、クラスター爆弾をはじめとする兵器で瞬時にして大量殺戮がなぜ行われるのか。
 神を信じている人々がなぜ殺戮の命令を出し、実行できるのか。「殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証を立てるな」(マタイ19-18)は嘘なのか。そんな人間は神に祈る資格すら持っていないのではないか。彼らは悪魔に魂を売った殺人鬼にしかすぎない。命令を受けて自らの手で人を殺めなければならないことに自責の念を感じ、何人もの若者が良心の呵責に苛まされ、それが故に自らの命を絶つ者もいることをどう思うのか。
 クラスター爆弾は発射した時だけでなく、その後何十年後、何百年後も罪のない人の命を奪うことになる。そのことを承知していながら、使用することを否定しない国々、そして日本国もその爆弾を保有していることはどういうことなのか。国連常任理事国がいずれも核を保有し、多くの国がクラスター爆弾も保有している現実を考えると、人間性善説は疑わしい。
 しかし、遅々としていても平和を願い、人の命を大切にしようとする運動が世界のあちこちで続いていることに微かな希望が見える。自分もそうした一員でありたい。

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