日々の抄

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  疑わしきは注意を喚起せよ

2007年03月01日(木)

 ことしは暖冬の影響のためかインフルエンザ発症が遅く、その数も例年に比べて少ないと聞く。インフルエンザは風邪と違って、こじらせると特に幼児や体力のない人は命を落とす場合もある。インフルエンザの特効薬としてタミフル(主成分はリン酸オセルタミビル)がある。本サイト昨年1月7日の記事でタミフルについて記している。それを再掲すると次の通りである。

『タミフルで死ぬことがある
2005年11月18日、タミフルを服用した日本人の12人の子ども(16歳以下)が死亡した問題で、大人も含めた死者は世界で71人にのぼることが、米食品医薬品局(FDA)の調査でわかっている。ただ、17歳以上の死者の4割は米国人で、子ども向けの使用は日本が米国と比べ際だって多いという。
 FDAによると、17歳以上の死者はこれまでに58人。年齢不詳が1人。タミフルは米国では99年から、日本では01年から使われ始め、過去5年のタミフル使用量は日本が世界の77%、米国が20%を占めている。また、過去5年の子どもの使用量は日本が米国の13倍にのぼった。神経・精神に異常を示した子どもは32人いて、うち31人は日本人だった(日本人と欧米人とでタミフルの体内での代謝のされ方が異なるという見方がある)。』

 そのタミフルの投薬を受けた仙台市在住の中学2年の男子生徒が、2月27日に11階から転落死した。死因は転落の強い衝撃による大動脈離断という。男子生徒は2月26日朝、市内の医院でインフルエンザと診断され、午前中と午後6時にタミフルを1錠ずつと、解熱剤を服用したという。同夜、「トイレに行く」と言い残して玄関から出て行ったが、不審に思った母親が後を追ったところ、少年は外廊下の高さ約1.3メートルの手すりに足をかけており、声をかけたがそのまま地上の駐車場に転落したという。家族の話によると自殺する動機など思い当たらないという。
  2月16日にも、愛知県蒲郡市のマンションから中学2年の女子生徒が転落死したとみられる事故が発生したが、県警の調べで、女子生徒は同日にインフルエンザとの診断を受けてタミフルを含む複数の薬を処方され、タミフルを服用した形跡があることがわかっている。
「薬害タミフル脳症被害者の会」などによると、岐阜県で平成16年、17歳の少年が自宅から国道に飛び出し交通事故で死亡したケースや、17年に愛知県で14歳の少年が、18年には沖縄県で12歳の少年が、それぞれマンションから転落死したケースなどで「副作用」が指摘されている。

 厚労省研究班は昨年11月、約2800人を対象にした調査で「タミフル服用の有無によって異常行動などのあらわれ方に差はない」との結果を公表している。また、平成13年2月のタミフル発売以降、厚労省に報告された服用後の患者死亡54例の中には、因果関係が認められるような異常行動のケースはないという。厚労相は2月27日、「因果関係が明らかでないと責任ある対応を取ることはできない。専門的な検討はしなければならない」としているが、「厚労省に報告された」ことがすべての症例ではあるまい。いじめ問題で文科省が把握していた件数がその後に大幅に増えたことを思い起こすと、厚労省のこの見解を俄に信じるわけにはいかない気がする。これだけの「副作用」かもしれない若者の死が報じられている以上、臨床医の「インフルエンザに伴う異常行動の例はタミフル登場前にもあったが、これだけ事例が増えてくると、タミフルとの因果関係を再検討すべき時期に来たのではないか」の指摘に耳を傾け、早急な調査検討が必要なのではないか。
 タミフルはインフルエンザA香港型とB型の特効薬として、スイスの製薬会社が開発し中外製薬が輸入・販売している。世界中で重宝がられるが、副作用として幻覚など精神的、神経的症状が突発する恐れも指摘されてきている。これらの事故死がタミフルが原因ではないと断定できない限り、投薬時に十分注意を喚起するよう手だてを国として立てるべきではないか。今までに分かってないから大丈夫と断言できるのか。「因果関係が認められない」とする調査母体が2800件というが、その件数は妥当なのか。後に「因果関係はあった」と判明したなら、それまでに命を失った子供達の犠牲は、「知らなかった」ではすまされまい。そうなったときの関係者の責任は重大である。「因果関係が明らかでない」からこそ、疑わしきは注意を喚起せよである。厚労省をはじめとする関係者はタミフルの投薬を自分の子どもや孫がうけるとしたら、「因果関係がないから」といいきれるのか。
「こどもにタミフルを投薬した後、注意深く観察しろと言われても、母親は子どもに24時間つききりでいられるはずがない」などと訳の分からないことを喚いている女性コメンテーターが報道番組で話していた。どんな状態でも子どもの命を守ろうとするのが親の勤めではないか。この世で我が子が自分より先に亡くなることほど悲しいことはない。そんな世の親の気持ちを関係者は十分察して発言し、対応してほしい。

追記:
この文章を書いた後(28日夜)、厚労省から医療機関に対して『「現段階で安全性に重大な懸念があるとは考えていない」が、小児・未成年者がインフルエンザで自宅療養する際は、タミフル服用の有無にかかわらず「異常行動が出る恐れがあること」、「2日間は患者が1人にならないよう配慮すること」を家族らに説明するよう』通知が出されたと報じられた。医療現場ではとっくに行っているであろう注意喚起で、通知は遅きに失した感は否めないものの賢明な判断といえる。

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