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【21】 電子と光
21−1電子の比電荷(specific charge of electron)
* 電子はどのように調べられたか
電子(electron)の呼称はG.J.ストーニー(1826-1911)が1891年に導入した。
電子の存在は真空放電の実験によって発見された。19世紀中頃以降不完全真空の放電が研究された。A.P.マソン(1806-1858)は強力なコイルとトリチェリの真空管内で実験した。数年の後ガラス吹工であったH.ガイスラー(1814-1879)が精巧なガラス放電管を作成した。ガイスラー管は数cm〜数mmHgでネオンサインなどの放電管である。気体によって色が異なり,蛍光灯は少量のAr,Hg蒸気を封入し内壁に蛍光物質を塗り紫外線によって発光する。ガイスラー管の放電によって陰極線近くが緑色に見えるが真空度によって管内の模様が異なる。
この管をガイスラー管とプリュッカー(1801-1868)が命名。これらの管内で行われる放電は,非常に美しいものだったが,電気や気体の理論を一層深く見極めるという点では,あまり役立たなかった。水銀ポンプが改善され,より高度の希薄(真空)化が達成されるようになると,放電現象を有効に利用できる範囲も一段と広いものになった。J.W.ヒットルフ(1824-1914)は1869年に管内の暗い空間部分が排気が進むにつれて広がり,ついには管全体を満たすことを確認した。1869年ヒットルフはこの蛍光を発するガラス壁と陰極との間に物体を置くと物体の影が生じることを観察し,陰極から出ている放射線が蛍光の原因だと考えた。この放射線はゴルドシュタインが1876年に「陰極線」と命名した。
クルックスは陰極線が,ガラス管に入れた羽根車を回転させることを発見,磁場の影響を受けることから陰極で負電荷を受け取った気体分子が陰極線だと主張した。一方,波動説をとる立場の科学者たちは,「エーテル(光を伝える媒質で17世紀に導入された)」の振動が陰極線だと考えた。その根拠は,静電場をかけても陰極線は曲らないというヘルツの実験,金属の薄膜を陰極線が通すレーナルトの実験を根拠としていた。
J.J.トムソンは磁石で曲げた陰極線を検電器に導いても負電荷が検出されることを示して,荷電粒子そのものが陰極線であるとした。また,ヘルツの実験に対しては,陰極線によって気体分子が電離されると,電極付近にはその反対電荷をもつイオンが集まり,電気的に中和されて実際は電場が存在しないことになると考えた。気体分子を少なくするために真空度をあげて実験したところ,わずか2Vの静電場で陰極線を曲げることに成功した。トムソンは金属板に紫外線を照射したときにとび出す荷電粒子を陰極線粒子の代用として使って陰極線粒子の質量を測定した。その質量は水素イオンよりもずっと小さいことがわかり,1899年,「原子は多数の’微粒子’から成っている」とし,最小の電荷と考えられていた水素イオンの電荷と,陰極線粒子の電荷の等しいことが示された。かつて電気素量という意味をこめたストーニーの造語である“電子”が復活し,トムソンの’微粒子’は電子と呼ばれるようになった。
明治38年(1905年)に近藤耕蔵による『電気学講義』で,陰極線は電気を帯びた「極微物体(電素)」と記されている。
(1) 電場Eによる電子の振る舞い(電荷をe,質量をmとし,重力による影響はないものとする)
図のように極板間隔d,長さl のコンデンサーに電位差V をかけ,電子を電場(E=V/d)に垂直方向に速さv0で入射させる。平行電極板の中心から蛍光面までの距離をLとする。電子は電場内を通過した後,蛍光板に輝点を作る。
x y方向それぞれの運動は
図の領域(T)
x方向 速さvx=v0,移動距離 x=v0t @ (l=v0t0)
y方向 加速度をay運動方程式 may=eE ∴
vy=ayt,移動距離 y= A
平行電極板の右端では
B (21-1)
⇒ x=0〜l では放物運動
領域(U) 電子は力を受けないので等速度運動をする。このため直線運動である。
速さは vx'=v0,vy'=vy
移動距離は C
蛍光面上の移動距離は
y=y1+y2= ∴ D (21-2)
⇒ 電子の初速度v0はV0(V)で加速すると
E
これを上記のe/mの式に代入すると,e/mが消去され測定不可能なので,次の磁界中の測定と合わせてe/mを求める。
(2) 磁界中の電子の振る舞い横の長さl の領域に紙面手前から奥へ向かう一様な磁界Bがある。図のように初速度v0で電子を送り込むと,磁界内で円運動,磁界を出てから直線運動する。磁界内の移動距離z1,磁界外の移動距離をz2とする。
磁界中ではローレンツ力が向心力となる円運動をするから,半径をrとして運動方程式から
@
A
磁界を出てからは外力を受けないから直線運動をする。
∴ B
∴ z=z1+z2= C (21-3)
C式に(1)E式のv0を代入するとe/mを求められる。
ここで電場を同時にかけて,@のy とz を等しい値にすると
C式から
これと@式から(21-4)
E と Bを同時にかけた場合の電子の軌跡を右図に示す。放物線になっていることがわかる。
電気素量の測定(elementary electric charge) Millikan(1868-1953)による
恒温槽内に極板を水平に設置し,電場を与えられるようにしておく。上部から油滴を落下させ,油滴を電離させるためにX線を照射する。落下してくる油滴の速度を顕微鏡で測定する。油滴の電荷をq,質量をmとする。
電場をかけない場合,油滴は空気抵抗を受けて直ちに等速落下速度をする。このときの速度をv1とすると,重力mgと空気抵抗力kv1のつり合いから
mg=kv1 (kは油滴によって決まる定数) @
電場Eをかけた場合,油滴に働く力がつり合って等速v2で上昇する。静電気力qEを上向き,空気抵抗力kv2,重力mgを下向きに受けるので,力のつり合いから
qE=kv2+mg A
@,A式から
qE=k(v1+v2) ∴ q= B (21-5)
定数kは@から油滴の質量が既知ならv1を測定すれば与えられる。
測定によると電荷qはある電荷の整数倍であることがわかった。
測定例
電荷 q1 q2 q3 q4 q5
11.36 9.70 8.09 4.87 3.23 ×10-19C ← 測定値
N・e 7e 6e 5e 3e 2e ← q が電気素量eの何倍かを調べる
← e=総電荷/電子数
プランク(E.K.E.L.Plank)定数はどこから来たか
上記のkを別の方法で調べてみる。油滴の半径r,空気抵抗に関係する粘性係数ηが考慮されてない。ここで,これらを考えた場合どうなるかを考えてみる。
ストークスの法則から,抵抗力はF=6πrηv (ただし,この式はr が小さいと使えない)
@式は F=kv1=6πrηv1=mg ∴
∴ ∴ k=6πrη=
Bを書き直すと C
浮力を考慮すると,浮力= から
上式のρをρ−ρ0と置き換えて
D ← 同じqなら q∝(v1+v2)
電荷qがq' に変化し速さv2がv2' に変化すると
∴ q=q−q '= Eプランク定数は黒体輻射問題から出発した。
ルンマー(Lummer)とプリグスハイム(Pringsheim)によってはじめて調べられて作られた黒体(全ての電磁波を吸収する理想的な物体)の実験により,黒体が放射する電磁波の波長と電磁波の強さと黒体の温度の関係が右図のようなグラフが得られ,これに対する定式化が各種検討された。黒体の波長に対する放射する割合Eは波長λと温度Tの関数である。@ Wienの式(1896年)
(21-6)
A Rayleigh-Jeansの式(1900年)
(21-7)
B Plankの式(1900年)
(21-8)
WienとRayleigh(1842 - 1919)-Jeans(1877 - 1946)の式はルンマーとプリグスハイムの実験結果と比べると,特定範囲では一致するがすべてを網羅するものではなかったが,プランクの式は上記の式でa=2πc2h,b=ch/k と (hはプランク定数でここではじめて提唱された物理量である) するとグラフとよく一致した。ここにはじめてプランク定数hに意味があり,かつエネルギーが一つの自由度に分配される値は異なる振動数νに対して等しくないことを示す。(振動数νの光が放射・吸収されるとき,hνの整数値のエネルギーが放射・吸収されると考えた)
この h が,後に光電効果をきっかけにして,原子の世界を支配していることが解明されてきた。
黒体輻射の実験から次の法則が見いだされた。
(1) Wienの変位の法則
右上グラフのそれぞれの温度Tとエネルギーの最大を示すときの波長λmaxの間の関係式は次式で与えられる。
λmax・T=2.87×10-3 m・K (21-9)
放射される電磁波の波長は,物体の種類によらず温度だけで決められる。この式から,物体が発する電磁波の波長から温度を測定できる。
(2) Stephan−Bolzmanの法則
放射される電磁波の総エネルギーは温度の4乗に比例する。物体表面1m2から1秒間に放射されるエネルギーは
E=σT 4=5.67×10-8T 4 J/m2・s (21-10)
このEは[波動]で出てきた波の強さと同じである。(地球大気に入る前に1cm2に1分間に太陽から与えられるエネルギーを太陽定数という)
(1)の例
太陽ではλmax≒5.0×10-7m だから,太陽の表面温度Tは
(2)の例
太陽からの地球への放射エネルギーは3.25×102 cal/m2・sだから,太陽と地球前の距離は太陽の半径Rの215倍として
地球大気に入る前に単位時間に送られるエネルギーは
E1=3.25×102×4π×(215R)2×4.19 (J/s) (4.19は熱の仕事当量)
太陽から単位時間に放射されるエネルギーはStephan−Bolzmanの法則から
E2=(5.67×10-8)T4×(4πR2) (J/s)
E1=E2から T=5.77×103K
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