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【24】原子核
1.原子核(atomic nucleus)
(1) 核の質量
陽極線(電荷はeの整数倍)の質量,電荷から測定した。(陽極線は1886年Goldsteinによって発見された。放電管の陰極に細孔<カナル>を開けたのでカナル線とも呼ばれる)
@ J.J.Thomson (=原子のトムソンモデル考案者1856-1940)の質量分析器1912年
左図が質量分析器の原理図である。電極間で印加すると電子が負極から陽極に進むが,この電子と衝突した原子はイオン化し陽電荷を持ち陽イオンになる。このため陽イオンは負極に向かい,陰極間の隙間を通過している間,電極によって作られた電場EからeEの力を受けて放物運動,磁石によって作られた磁場Bからローレンツ力を受けて円軌道を描いた後直進し乾板Fに達する。トムソン質量分析器では磁場と電場は平行に置かれた。陽極線の電荷をq,初速度をv0,質量をmとすると,電場による乾板上の変位はq/mv02に比例し,磁場による変位はmv/qに比例する。これらの変位から陽極線の比電荷q/mを測定した。
A Aston(1877-1945)の質量分析器1919年
トムソン質量分析器の改良型で,電場と磁場を垂直にかけ,それぞれによる直線上で逆向きに進むように工夫された。
B Bainbridge (1904-1996)による質量分析器
電場と磁場を独立させた改良型。装置が大きいが構造が単純である。磁場内での円運動の半径r は運動方程式から
V(V)で加速すると,qV= から
q/mが同じものは写真乾板上の同じ位置に合焦する。qが等しくmが異なる同位体[isotop=isos(同じ)+topos(場所)]を測定可能である。
(2) 原子核
@ 大きさ,形・・・形は電荷分布からわかり,球形とみなしてよい。半径r はr=1.3(±0.2)×10-15×(A)1/3m(Aは質量数)
例 α 粒子散乱でθ=180゚(進行方向に反跳された場合)
Auは静止しているとする場合,α 粒子が最も接近する距離r は
(はじめの運動エネルギーK=最接近したときの位置エネルギー)として
K=8.8×10-13J とすると
(Auの半径はこれより小さい)
A 質量と電荷・・・電子の質量は水原子核の約1/1835にすぎないから,原子の質量のほとんどは核が担っている。電荷は原子番号Zと同じ。2.放射能(radioactivity)現象
B 質量単位・・・の質量の1/12を1amu(atomic mass unit=原子質量単位)とする。
1u=1.6606×10-27Kg (核子1つの質量≒1u)
C 核の構成・・・陽子 ( Z 個=原子番号と同じ)と中性子 ( N 個 ) からなる。(1932年ハイゼンベルグによる)。質量数 A はA=N+Zである。
核の表し方
D 同位体(核)・・・陽子数Zが等しく質量数Aの異なる(つまり中性子数Nの異なる)核のグループ。
これに対して同重体は質量数Aが等しく陽子Zが異なる核種。(例えばと)
同位体の例 ,
(=陽子 1個,99.985%) ・・・・・・ プロトン(proton)
(=重陽子, 各個,0.015%)・・・デューテリウム(duterium)
(=三重陽子 1個, 2個) ・・・・・トリチウム(tritium)
(1) 自然放射性崩壊(natural radioactive decay)
放射能・・・放射線を出す現象(radioactivity)。原子番号84(Po)より原子番号が大きい核は放射能がある。
@ 放射線(radiation) 核の崩壊によって出される粒子,電磁波
実体 電荷 速さ(×光速c) 電離作用 透過力
α 線: (ヘリウムの原子核) +2e 大 小(厚紙1枚程度) (1908年ラザフォード発見)
β 線: 電子 −e 中 中(本一冊程度) (1900年ビラード発見)
γ 線: 電磁波 なし 1 小 大(厚い鉛も吸収しない)
(光電,コンプトン効果顕著・・・・1914年ラザフォード,アドルードが測定)
放射線の人体への影響(日本原子力学会編 「原子力がひらく世紀」による)
α 線:水中で10μm,空気中で数cmで止まる。皮膚で止まるので人体への影響はない。(ただし体内に摂取すると別)
β 線:α 線より透過力があるが,空気中で数m,水中で数cmで止まる。
(1Mevの場合空中で3m,水中で0.4cm)。外部からは大部分は皮膚で止まるので,主に皮膚の被爆が問題。体内器官への影響はほとんどない。
γ 線:皮膚を通って体内組織,器官へ到達し,影響大。
中性子:原子核をはじきとばしたり,反応する。外部からはγ 線と同じ影響である。
A 放射線検出
検出器 | イオン化 | 個粒子 | 動作物質 | |
飛跡を見る方法 | 原子核乾板 | 〇 | 〇 | 固体 |
霧箱 | 〇 | 〇 | 気体 | |
泡箱 | 〇 | 〇 | 液体 | |
放電箱 | 〇 | 〇 | 気体 | |
電離作用による方法 | 電離箱 | 〇 | 〇 | 気体 |
比例計数管 | 〇 | 〇 | 気体 | |
GM計数管 | 〇 | 〇 | 気体 | |
半導体検出器 | 〇 | 〇 | 固体 | |
蛍光計数器 | 〇 | 気,液,固 |
飛跡を見る方法
霧箱
1911年ウィルソンにより作られた。アルファ線,β 線などの飛跡が眼で確認できる。原理は,過飽和蒸気のある気体中に荷電放射線が入射してイオン対ができると,イオンを中心として液滴ができることを利用したもの。
泡箱
1952年グレーザー考案による。原理は,高圧高温液体の圧力を断熱的に取り除いて過熱状態を作り,荷電放射線を入射するとその道筋が泡と並んで飛跡として観測できる。泡用物質として水素,重水素,ヘリウム,プロパンなどがあり,霧箱より高エネルギー現象を観測できる。
原子乾板
写真乾板の黒化度から放射線強度をX線で利用されていたが,α 線が見分けられることを1910年木下季吉が発見。1940年パウエル(英)が感度を上げることに成功した。
放電箱
1950年福井崇時,宮本重徳によって開発,1963年チコバニーによって改良された。原理は,1気圧程度の気体に7kV/cmの電場をかけておくと,荷電放射線がイオン対を作った位置で電極間にスパークが起こる。電子なだれと紫外線の作用による放電による光が観測できるというものである。
電離作用による方法
電離箱
原理は,Ar,N2,H2などの気体を入れた箱の中に2つの電極を置き,数100Vの電位差をかけたものである。
放射線の入射によって気体内に生じた陽イオン,電子が電極に向かって流れ,これによる電流を測定するものである。正イオンの動きは遅いので通過量の総量が測定され,電子の場合は放射線の通過を電気パルスとして測定できる。
比例計数管
電離箱と同様な構造を持つが,電極間に生じる電界を強くして電子が正電極へ達するまでの間に十分加速され,ガス分子を順次電離することにより増幅作用を持つように作られたものである。α,β 線に有効。
ガイガーカウンター(α,β 線に有効)
Ar中にアルコール,エーテル,臭素,塩素などを少量混合したものを金属シリンダーの中に封入し,中心軸に絶縁したタングステン線を陽極にし,ここに集まる電子による電気パルスを測定するものである。電子とガス分子の衝突による発光で光電効果が起こり,多数の電子が発生するので感度が高い。
半導体検出器
シリコンのPN接合ダイオードの接合部に放射線を照射すると,自由電子とホールが対になって生じる。1個の放射線により多数の電子を生じる。広く使われている。
蛍光計数器
放射線が分子原子の電子状態を励起し,これが低いエネルギー状態に移るとき蛍光を発する。この光を光電面に当てて光電効果により光電子に変え増幅して計測するが,γ 線に有効である。広く使われている。
B 崩壊の種類と崩壊法則
崩壊の形には次の3つがある。
α 崩壊
(24-1)
核Xが崩壊によってα 線を出し質量数が4,陽子数が2減少した新しい核に壊変する
β 崩壊
(24-2)
核Yが電子を放出し,新しい核Y 'に壊変する。核Yの中の1個の中性子が陽子,電子と反中性微子に変わる結果と考えられる。
γ 崩壊
α,β 崩壊でエネルギー準位を変えるとき放射される。(90GeV程度)
崩壊法則
単位時間に壊れる原子数は元の量に比例する。
時刻 0,t での原子数をそれぞれN0,N,崩壊定数をλとすると
(24-3)
半減期(元の量の半分になる時間)をT とすると
である。元の量の1/4になるのは2T,1/8になるのは3Tである。
( ∵ lnN=−λt+C ∴
t=0 で N=N0だから ∴ (a)
半減期 t=T では
∴ (b)
(a),(b)式から ,
∴ (24-4)
lnは自然対数である )
半減期の例
U239:23.5分,I131:8.04日,Sr89:50.5日,Pu239:2.412×104年,U238:4.468×109年,Th232:1.41×1010年
C 崩壊系列
トリウム系列
ネプツニウム系列
ウラン系列
アクチニウム系列
は「アクチノ・ウラン」と呼ばれるのでアクチニウム系列という。
( ) 内は質量数で,nは整数で,例えばウラン系列ではn=59で,n=60でで以下質量数が4ずつ減少する。崩壊するごとに質量数が減少することを示す。
ネプツニウム系列は人工的な変換で存在する。
天然に存在する放射性同位体で,崩壊系列に属さないものを起源別に大きく2つに分けると以下の通り
原始放射性核種
K40(半減期12.7億年)やRb87(半減期475億年)の他100億年以上の長い半減期を有する約10程度の核種がある。
宇宙線起源核種(宇宙線生成核種)
トリチウムH3(半減期12.3年),ベリリウムBe7(半減期53日),炭素C14(半減期5730年),
ナトリウムNa22(半減期2.6年)などがある。
生活の中の放射線源
カリウムK40・・・土中に含まれる自然放射性物質。天然カリウムの0.0117%。米,野菜に取り込まれるが,人体によって必須元素なので日常の食事で,経口摂取により被爆する。体重1Kg当たり約2gが含まれ,これの0.0120%は60Bq(ベックレル)/Kgに相当する。赤色骨髄が最も多く(270μGy(グレイ)/年),年間実効線量は180μSv(シーベルト)
ポロニウムPo210,鉛Pb210・・・海水→魚・貝→人の順に摂取される。
ラドンRn222(希ガス)・・・半減期3.8日。散逸によって土壌中から空気中へ移行し,屋外空気中で0.1〜10Bq/m3。屋内は建材,構造で異なるが,5〜25程度。半減期が短いので体内では1ヶ月しないうちに消滅する。
ウランU238・・・10〜50(平均25Bq/m3)程度含まれ,通常の自然放射能地域での年間食品摂取量は約5Bqと推定される。
* 放射線量の単位のBq,Gy,Svについては「放射能の強さの単位」参照のこと。
放射線ホルミシス
ギリシャ語のhormeに由来し、ホルモンと同じ語源を持つ。大量では有害作用を有する各種の作用源が,少量では生理機能の刺激効果をもつことをさす。放射線が低線量でも生物に対して障害作用をもつと考えられてきたが,1980年代に入って、低線量の放射線はかえって有益な効果があるとの主張されるようになってきた。
生物は現在より高い自然放射線の環境下で生じ,放射線をはじめとする各種の状態の中で進化してきたが,多様なストレスに対し,生体が進化の過程で得てきた生体防御機構と考えられる。放射線ホルミシス現象は,分子,細胞レベルで認められ,細胞増殖の促進,成長促進、がん発生率など多くのホルミシス効果が認められている。
放射能の強さの単位
単位(SI単位) 旧単位
放射能の強さ Bq(ベックレル) → Ci(キュリー) 1Ci=3.7×1010Bq
1秒間に1個の核が崩壊するときに出る放射線物質の単位。
照射線量 クーロン毎キログラム(C/Kg) → R(レントゲン) 1R=2.58×10-4C/Kg
空気1Kgに照射し1クーロンのイオンを作るX,γ 線の線量。
吸収線量 Gy(グレイ) → rad(ラド)・・・ネズミ1匹を殺す量としてRussが命名による
放射線のエネルギーがどれだけ物質(人体)に吸収されるかを表す単位。 1Gy=102rad
1Kg当たり1ジュールのエネルギー吸収があるときの線量。
線量当量 Sv(シーベルト) → rem(Reontgen equivalent man=レム) 1rem=0.01Sv
放射線によってどれだけ人体に影響があるかを示す線量当量
X線,β 線,γ 線は1Gy=1Sv,α 線は1Gy=20Sv
通常の年間自然被爆は約2mSv
集団検診での胸部X線0.3,胃検査0.6mSv
(値は日本原子力振興財団資料による)
原子の平均寿命
不安定な原子が壊変しないで存在する平均時間
ある時刻t での原子数をN,それからdt 間に壊変して他の原子に変わった原子数をdNとすると,dN∝N∝dt だから
−dN=λNdt ・・・・@ (負号はdt>0でdN<0 のため)
dN個の原子は寿命t を保ったから,dN 個の原子ののべ寿命はt・dN である。t=0でN=N0とすると,平均寿命τは
← dN=−λNdt
=
原子がN0の1/eになる時間をτ' とすると
から
∴ ∴ λτ'=1 ∴ τ'==τ (=36.788% )
例 K40(T=1.3×109年,自然で0.0117%)による放射能・・・自然被爆の10% の壊変率(崩壊による単位時間当たり核の個数)は
1gでのK40の原子数Nは
壊変定数λ== (1/s)
壊変率λN=(1.69×10−17)×(1.51×1022)=2.55×105(decay per second=Bq)
=6.9×10−6Ci (キュリー)
(2) 人工放射性崩壊(artificial radioactive decay)
人工的に核変換は数限りなくあるが,代表的な例を示す。自然崩壊の場合と同じく陽子,中性子の組み合わせを変えるだけで,核反応の前後で質量数,陽子数は変わらない。
@ 人工変換(artificial conversion)
ラザフォードによる初の人工変換(1919年)
ラザフォードによって人類初の人工核変換が行われた。左図は霧箱での反応の様子である。反応式は
(24-5)
で,N14にα 線を衝突させると陽子H1とO17に変換された。右辺のH1は1915年マルスデンが空気にα 線を当てると長い飛跡の粒子が出てくることを確認しており,これが陽子であることが確かめられた。
チャドウイック(1891-1974)による中性子発見(1932年)
Po(ポロニウム)から出されるα 線をBe9に衝突させると電荷を持たない陽子程度の質量の未知な粒子が作られることをチャドウイックが発見した。電離箱の前方にパラフィンなど水素を多く含む物質を置き,その後方に資料としてのAl,Li,C,Nなどに左下図のように,未知の粒子を衝突させ,資料の厚さを変え透過しなくなった厚さからそのエネルギーを測定した。未知の粒子が陽子,窒素に衝突した場合について,弾性衝突と考えて運動量保存の法則,エネルギー保存の法則から
陽子の場合
未知の粒子,陽子の質量をm,mp,はじめの速さをv,衝突後のそれぞれの速さをv',vpとすると
mv=mv'+mpvp,
∴
同様に窒素の場合も窒素の質量をmN,衝突後の速さをvNとすると
mN≒14mp,測定値vp=3.3×107,vN=4.7×106m/sから両式より
∴ m=1.16mp この結果から,未知の粒子は質量が陽子にほぼ等しく,電荷を持たない粒子で,これを中性子と名づけた。
コッククロフト,ウォルトンにより質量とエネルギーが等価であることを検証(1932年)
その他の人工変換の例
重陽子によるもの
中性子によるもの
A 人工放射能
ジョリオ・キュリーによる陽電子e+の発見(1934年)
同じく
陽電子は
1928年ディラック(D.A.M.Dirac1902-1984)が存在を予言し,1932年アンダーソン(C.D.Anderson1905-1991)が宇宙線から発見し,2年後ジョリオキュリーが実験室で発見した。
β +崩壊
上記の崩壊では前記のβ 崩壊(β -)と異なり,核反応後陽子数が1だけ減少する。これは次のような崩壊が起こっている。
(24-6)
元の核Xの核子の一つの陽子が中性子,陽電子,中性微子(ニュートリノ)に変化し新しい核X'の変わると考えられる。この結果元の核は陽
子数を1減らすことになる。これをβ +崩壊 という。これらの反応の途中では
p ⇔ n+π+(π+中間子),n ⇔ p+π−(π−中間子),p ⇔ p+π0,n ⇔ n+π0
のような中間子が交換されている。
β 崩壊には前記のβ - 崩壊 とともに,軌道電子を捕獲して の反応するK電子捕獲もある。
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