日々の抄

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 衆院選の争点は何か

2014年11月23日(日)

  衆議院が21日に解散した。解散が宣言された21日の衆院本会議で、伊吹議長が解散詔書を読み上げ「日本国憲法第7条により衆議院を解散する……」と読んだところで、一部議員が先走って万歳と唱えたが、白けた雰囲気が流れた。伊吹議長は「万歳」が静まるのを待ち、「御名御璽。平成26年11月21日、内閣総理大臣・安倍晋三。以上です」と続けた後、「万歳はここでやってください」と促し、ようやく一斉の万歳三唱となった。衆院が解散して再び戻れるか分からないにも関わらず、謂わば失職の瞬間であるのに「万歳」は馴染まない習慣である。一説によれば、嘗て衆院解散時に天皇の臨席があったことがあり、この時に「万歳」を唱えたという。今の代議士は、衆院解散時の仁義も知らないらしい。「万歳」の粗相をした議員は議場の前の方に多かったから、一年生議員が儀式の所作を教えられてなかったのかもしれないが、お粗末な永田町の世間知らずの所業である。まるで小学校の卒業式で児童が教員に窘められている風で滑稽に見えた。
 
 何のための衆院の解散なのか。首相は19日の記者会見で「税制こそ議会制民主主義と言っても良い。その税制において大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきであると考えた」と述べ、衆院解散後の記者会見では「景気を回復させて、企業が収益を上げる状況を作り、みなさんの懐へと回っていく。経済の好循環を力強く回し続けることで、景気回復を実感できる」とし、「この解散はアベノミクス解散であります」と述べ、自分の経済政策の可否を国民に信を問うというつもりらしい。
 
 アベノミクスと称する、持ち株家と大企業だけを利するような経済政策だけが国民生活ではない。給料は上がった、雇用が増えたと言っても、アベノミクスを成功したと考えている国民は30%(朝日新聞11月調査)、増税を延期し確実に引き上げを「評価せず」は49%であり、税収不足が社会福祉などの国民生活に支障をきたすことを国民は理解しており、増税延期が政権の点数稼ぎに過ぎないことを国民は見抜いていることに気付くべきである。雇用が増えても非正規社員が増えていることで国民が豊かになれるとでもいうのか。中小企業が喘いでいることをどう思っているのか。消費が伸びないことをどう説明するのか。

 そもそも消費税を増税しないことに反対している政党はどこにもない。消費増税は景気条項で上げないことも認められており、「税制において大きな変更を行う」のだからとして、それが解散理由にならないことは自明であり、滑稽な話である。この程度のことで国民を騙せると思っている政権は国民を舐めている。17日、政府が再増税について有識者の意見を聞く「点検会合」では、出席した経済の専門家10人のうち8人が「予定通りの再増税」を主張した。いったい何のための「点検会合」だったのか。話を聞いたことにする、予定通りのアリバイ工作だったのだろう。

 民主党政権から現政権に変わるときに交わした3党合意は、「消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%にするが、経済状況の好転が条件である。消費増税による税収増は全額社会保障に当てる。低減税率など低所得者対策を検討する。」などだった。また、消費増税を実現するため、「身を切る改革」として議員定数の削減を安倍氏が同意した結果、衆院を解散した経緯がある。このことから、今回の衆院解散の理由が、「税制において大きな変更を行う」は不当なものである。いったい議員定数削減がなされなかった責任をなぜ明らかにしないのか。国民はこの一点だけでも安倍内閣に欺かれていると言わなければなるまい。議員一人当たり一年に1億円の国費が支出されているそうだ。100人の議員を減ずれば、労せず毎年100億円がうくことになる。政治資金を私物のように利用して不都合を指摘され、書き間違えでした、訂正します、などと開き直っている議員に1億円など支出する必要な全く感じない。

 現政権は、集団的自衛権の行使容認のために、憲法解釈の変更という立憲主義を否定するような手法をとった。衆院選の争点は、国民の生命と安全にかかわる、特定秘密保護法、原発再稼働、集団的自衛権、沖縄県辺野古沿岸部の埋立てなど、国論を二分している問題が挙げられるべきである。
 アベノミクスを前面に出し、「経済を活性化し、皆さんの生活を豊かにします」などと甘言を流して政権を継続することにより、集団的自衛権などの諸問題も一任されたなどと目論んでいるのだろうが、仮に政権が維持されても、すべて全面白紙委任しているつもりはない。本来は、「各論を明示して集団的自衛権を行使したい」ことをもって衆院選をすべきだったのではないか。
 
 マスコミが、「どうせ投票したって政権は変わらないと思っている選挙民が多い」などと喧伝し、結果的に政権維持に加担していることに気づくべきである。2012年衆院選での小選挙区での自公の議席数は全議席数の82%だったが、得票数は45%にしか過ぎない。投票率は小選挙区で59.32%で戦後最低を記録した。自民党の得票率は小選挙区が43.0%。比例代表は27.62%。ただし、これは投票した人の中での比率だから、自民党の実得票数は小選挙区は25.5%にしかすぎない。つまり、有権者の1/4にしか支持されてないことになる。こんなことで、「国民の信任を得ているから」などと得意顔で、解釈で憲法を変えることなどできないはずではないか。小選挙区制は2大政党制を考えてのこと。すでに一強多弱になっていることを考えれば、選挙制度はとっくに変えるべき時が来ている。政治と民意が乖離している大きな原因はここにある。

 投票に行かないことは、解釈憲法を容認し、海外に自衛隊が派遣されることを容認すること、原発再稼働を認めることになることになり、そのことに責任を持つべきである。電力が不足するから、ベースロードとして原発が必要だと唱える人は、自分が原発の5キロ圏内に自宅を設ける覚悟があるか考えてみることだ。自らの家族、友人、恋人が海外に派遣される自衛隊員であることを考えてみることだ。自分だけ安全な場所にいて、総論賛成を語ることは無責任の極みである。
 マスコミは選挙の争点が、上にあげた国民の生命、安全に関わる諸問題であることを炙り出してもらいたい。今のままの政治状況が続くと、軍靴の音が聞こえる、物言えぬ、嘗てこの国が通ってきた忌まわしい国に向かって進んでいくような気がしてならない。
 
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