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【23】原子構造

1.水素原子のスペクトル(spectrum)

1884年バルマーの実験によって水素原子の発するスペクトルが測定された。可視光線として4種類の波長が測定できた。それぞれの波長
Hα,Hβ,Hγ,Hδ の定式化は次の通り。
                      ×B  (B=3645.6Å) 
Hα=6563Å       (9/5)           →    32/5        →   32/(32−4)
Hβ=4861          (4/3)           →    42/12      →   42/(42−4)
Hγ=4340          (25/21)        →    52/21      →   52/(52−4)
Hδ=4102          (9/8)           →    62/32      →   62/(62−4)
 これらから波長を以下のように定式化した。
     (n=3,4,5,6)
その後リュードベリ(1854-1919)の提唱したリュードベリ定数R=1.097×107(1/m) を用いて
           
と書き換えられた。水素原子のスペクトルは,はじめバルマーによって可視後部が測定され,後に紫外線部,赤外線部のいろいろなグループが測定された。これらのスペクトルのグループを系列(series)と呼ぶ。
1906年 ライマン系列        (n=2,3,4,5)  (紫外部)
1908年 パッッシェン系列     (n=4,5,6,7)  (赤外部)
などであるが,右辺第1項の分母の数(下記のm)によって
1→ライマン(Lyman 1906)系列,2→バルマー(Balmedr 1884)系列,3→(リッツ・)パッシェン(Paschen 1908)系列,
4→ブラケット(Brackett 1922)系列,5→プント(Pund 1924)系列
と名付けられている。  ( )内は発見された年である。
これらを一般化すると
     (nm+1,m+2,m+3,・・・)      (23-1)

水素型イオン,その他の系列
   水素型イオン
      (m=2 Lyman,m=3 Fowlar,m=4 Pickering 系列)
      (m=6 Nicholson系列)
   その他
       m=整数,μsμp(<1)は各系列固有の定数

2.原子模型(atomic model)

原子模型について以下の代表的な模型が考えられた。
(1) トムソン(J.J.Thomson 1856-1940)モデル(1903年 干しぶどう入りケーキ(plum pudding)型)
広く正に分布した中に電子が左図のように分布する。
このモデルでは,原子が安定である。安定のために内側の電子配置に周期的に同じパターンが現れ,元素の周期性がある。
電子が何かの原因でつり合い位置から外れると,電子はこの位置のまわりに振動する。こうして,原子から光が射出される。
この光の振動数が普通観測される原子スペクトルの程度の大きさを持つために必要な正電荷の球の大きさの計算からおよそ10-10mであった。
(2) 長岡(1865-1950)モデル(1903年)
正の電荷が集中し,まわりに電子が土星の環のように分布する。この配置が力学的に安定しているとしたが,電子が静止していないので,マックスウエルの理論から考えると,光を射出するので安定ではない。原子の大きさが10-10mであることへの必然性の説明が不明である。
ボルツマンの弟子である長岡はマックスウエルの力学モデルから考えたが,翌年原子の形成過程について,カントの星雲説による惑星の形成過程をもとに論じている。
赤外線スペクトルは陽電荷の振動に対応,帯スペクトルは軌道面に垂直な電子の振動と対応するとした。
(3) ラザフォード(1871-1937)モデル(1911年)
正電荷と質量が中心に集中しきわめて小さい核を作り,そのまわりを正電荷を太陽とすると,電子が惑星のようにまわる。
1909年,弟子ガイガー(H.Geiger1882-1945),マルスデン(E.Marsden)の金箔を使ったα 線散乱実験によって,正電荷の集中する10-15〜10-14mの部分を核と名づけた。原子番号zの原子は,+z eの正,そのまわりにz個の電子からなるとした。




         
散乱実験の結果
@ 原子中で,8000個の入射α 線に対して1個の割合でこの散乱が起こる。つまり,トムソンモデル(広く電荷が分布する)は不適である。
A 正電荷を点電荷とすると,散乱公式が得られ測定結果とよく一致した。
B 一般に原子番号z e の電荷をもつ。(z を原子番号とすることはブレック(A.V.d.Broek)による)

ラザフォードモデルの困難点
@ 初期条件によって原子の大きさが決められるはずである。ある原子が一定のスペクトル,エネルギーを持つことが不可能で,核の質量が電子の質量より十分大きく核が静止しているとしたとき,その電荷−eと質量だけで大きさを示す長さの次元にならない。
A 電子の軌道が決まっても,(マックスウエルの理論から)原子は円運動するときに電磁波を出し,エネルギーを失って電子は核に引きつけられるはずである。(水素の場合,1.6×10−11秒で消滅する)
B 原子の発するスペクトルは
       
   周期は軌道半径rが小さくなると小さくなり,光の振動数は一定でない。水素が一定のスペクトルを出すことの説明ができない。


3.ボーア原子モデル (1913年)
ラザフォードモデルに対する困難さを解決するために,ボーアは以下のような2つの大胆な原子モデルを考えた。その最大の特徴はプランク定数を使ったことと,原子のエネルギーが離散的であると考えたことにある。(1)の量子条件を考えるために,左辺(角運動量)と一致する右辺を考えたが,古典物理学では解決できなかったためにプラン定数を導入したという。
(1) 量子条件
原子が定常状態では,原子は電磁波を出さない。次式の場合だけ定常状態が可能である。
      mvrn()    (23-2)
ここでmv r はそれぞれ電子の質量,速度,軌道半径,nは量子数である。
この条件から,定常状態でのエネルギーEnはとびとび(離散的)になる。
⇒ (23-2)を書き直すと 2πrn() となり,左辺は半径rでの円周長,右辺のはド・ブロイの物質波の波長だから,
「電子の軌道半径が物質波の整数倍の場合だけ定常状態が存在する」といえる。ただし,ド・ブロイが物質波を提唱したのは1923年だからボーア理論の方が歴史的には先である。
(2) 振動数条件
原子がエネルギー準位EnからEn' (EnEn' とする)の定常状態に移るとき(遷移するとき),EnEn'hνのエネルギーの光子を放出(吸収)する。
EnからEn' に遷移する場合は光子を放出し,En' からEnに遷移する場合は光子を吸収する(エネルギーが必要とする)
これらの仮定から軌道半径r とエネルギーEnを求める。
軌道半径r
電子(質量m,電荷−e)が静止している核(電荷+e)のまわりを速さvで等速円運動していると,クーロン力が向心力になるから円運動の運動方程式から
     ・・・・・・・@
量子条件から
   mvrn()   ∴   ・・・A
    @=Aから
          ・・・ B        (23-3)
    ⇒ n=1でr=0.53×10-10m(これをボーア半径という)になる。この大きさはラザフォードα 線散乱実験の結果と一致する。 
エネルギーEn
運動エネルギーと位置エネルギーからエネルギーを求めると
   En   (n=1,2,3,・・・)  (23-4)
⇒ この式からわかることは,n=1の場合(これを基底状態という)の軌道半径に対して,n=2,3,4,・・・の軌道半径は4倍,9倍,16倍になり,円軌道しか許されないことになる。このことは原子番号が大きいものについて対応できないこと,すべての原子の発するスペクトルを説明できないことなどの不十分さがある。これを解決したのが,以下に示すゾンマーフェルトによる理論である。
ボーア理論の実験での裏付け
ボーア理論が妥当なものか否かは実験で証明されなければならない。以下の2つが代表的な実験的証明である。
@ スペクトルとの対比
    (23-4) を量子数nn' について考えると
          EnEn'hν=hc
             ∴    
この式はバルマー系列からはじまった水素のスペクトルの定式結果 (23-1) と同じ形をしている。
ここで とリュードベリ定数Rを比べると R=1.10×107(1/m)と等しい。
    n' =∞とすると
    
と書くことができる。
 ⇒ 右図の説明(エネルギー準位とスペクトル)
水素原子のエネルギー準位を右図に示す。最もエネルギーが小さいのが基底状態であることに注意。
(23-1) と対比するとわかるが,エネルギーが大きい状態から
  m=1へ遷移する場合がライマン系列,
 m=2へ遷移する場合がバルマー系列(可視光部は4種類のみ)
 m=3へ遷移する場合が(リッツ・)パッシェン系列,
 m=4へ遷移する場合がブラケット系列
 m=5へ遷移する場合がプント系列
である。このことから,原子から出された光の波長がわかれば,どの状態からどの状態に遷移したかがわかる。
例1  水素の場合, である。
(1) n=3からn=2に遷移した。エネルギー差は
     
(2) このときに出てくる光の振動数νは,波長λは
     
     ∴    
     ∴    
例2  水素原子が n=1(基底状態)にある(E=−13.6eV)。これに10.2eVの光子を当てる。どのような状態か。
      −13.6+10.2=−3.4eV    ∴   n=2
   
A フランク・ヘルツの実験

水素が示すスペクトルの波長が@からよく一致することがわかったが,原子のエネルギーが離散的(とびとび)であることは証明されてない。このことをボーア理論が発表された翌年,実験によって証明したのがフランク(J.Frank 1882-1964)・ヘルツ(Gustav.Herz1887-1950)の実験である。
(ヘルツは振動数の単位になっているHeinrich.Rudolph.Herz1857-1894とは別人である)

   水銀蒸気を封じ込めた容器に下図のようにフィラメントを熱して熱電子を発生させる。電極Pは陽極であり,GはPより0.5Vだけ電位を高くしてある。Fが出てきた電子は陽極Pに向かって進む。水銀原子が関係しないなら回路に流れる電流は単調増加するはずだが,実験によると4.9V間隔で電流が減少を繰り返す。電流が減少するのは電子がPに達する前に水銀原子によってエネルギーを奪われると考えられる。水銀原子が基底状態から第一励起状態に遷移するためにエネルギーを奪うと考えると,この実験結果を説明することができる。
   電子のエネルギーはV(eV)だから,VE(=4.9eV)の場合に水銀原子は電子からエネルギーを奪わずVEの場合に電子は水銀原子からエネルギーを奪う。そして,Gの電位がPより0.5V高いから,VE<0.5ではPに達することはなく,0.5≦VEでPに達することができる。これらのことから水銀原子が離散的なエネルギーをもっていることが証明された。更にエネルギー準位が下がると(第1励起状態から基底状態への遷移)エネルギーの差に等しい光を放出するが(ボーア理論A振動数条件),4.9eVに相当する光の波長λは
       
この光は紫外線であり,実際に観測された値と一致している。このことから振動数条件が成り立つこと,原子のエネルギーが離散的であること,つまり量子条件が証明された。
 ここで注意を要するのは,4.9eVの2,3倍で電流が減少しはじめるのは第2,第3励起状態に遷移するためではないということである。もしこの考えが正しいならエネルギー準位は等間隔であることになり,水銀が発するスペクトルの経験式と矛盾するので正しくない。ではなぜ都合よく4.9eVの整数倍になっているのか。これは,仮に12eVのエネルギーをもった電子がPに向かう場合を考えると,一つの水銀原子が4.9eVのエネルギーを奪った結果,この電子は12−4.9=7.1eVのエネルギーを持っている。更に別の水銀原子がこの電子からエネルギーを奪って,電子の残りのエネルギーは7.1−4.9=1.2eVを残すことになり,これがGP間の電位差0.5eVより大きいのでPに達することができる。このように考えることによって,それぞれの水銀原子が4.9eVのエネルギーだけを電子から奪うと説明することができる。

                       
   ここに示された4.9Vを共鳴電圧(V)と呼ぶが,他の原子について参考までに下記に記す。
     Hg(4.9),K(1.63),Na(2.12),He(21)
(因みにNaの2.12eVに対応する波長を上の式を使って計算すると5.84×10-7mでありこれはナトリウムD線の波長と一致する)

       
        ボーア理論の拡張
ボーア理論は古典論での矛盾を解決するものだったが,ボーア理論では円軌道しか許されないなどの困難点もあった。これに対してSommerferd(1868-1951)らによって補正されたが,測定できない光の波長があったり,スペクトル強度の説明が不可能であった。その後,主量子数だけだったのに加えて,方位量子数(楕円も考える),磁気量子数(電子の円運動の向き),スピン量子数(電子の回転についての量子化)の4つで表すことによってうまく定式化がなされた。これがシュレーディンガーの波動方程式である。
(1) 方位量子数 l  
電子は軌道運動に対する角運動量を持つが,その動径成分,動径に垂直な横方向成分も,一周期間の積分値は量子化する。
動径方向量子数nr,方位量子数l (nφ)とすると
      nrnφn (主量子数)
  方位量子数l(nφ)・・・・電子の角運動量に関係を持ち,その角運動量は
  nlである。(l=0,1,2,・・・n−1のn個)
      ,     
(2) 磁気量子数 m・・・軌道楕円面の傾きを示す
電子が核のまわりを運動すると,磁気モーメントを有する磁石板と同じだから,これに磁場をかけるとラーモア歳差運動(こまの首振り運動に似る)する。このときの角運動量の加えた磁場方向の成分の成分が量子化されの値をとる。
   lm≧−l  として2n+1個 をとる。
(3) スピン量子数 s
電子の自転による角運動量をもち,これも量子化される。その値はの整数倍(0も含む。これをボーズ粒子という)か半整数倍(フェルミ粒子という)である。電子,核子,μ中間子のスピンは1/2,光子のスピンは1,π中間子のスピンは0である。

パウリの禁制律・・・上記の量子数nlmsで決められる電子は1つしか存在を許さない。フェルミ粒子はこれに従う。
余談 ──────────────────────────────────────────────────
    ボーア理論が作られる前に友人ハンセンが「バルマーの公式を見るよう」勧めたところ,「一切が明らかになった」と語ったという。
    ボーア理論に対する物理学者の反応
         ラザフォード:「電子は自分がどこに飛んでいくか知ってなければならない」
         レイリー:「私の性に合わない」
        ラゥエとシュテルン:「これが正しいとなったら物理学者を辞める」・・・でも辞めなかった。
        アインシュタイン:「とても気に入った」
─────────────────────────────────────────────────────

         

【23】補遺 エネルギーバンド
気体状態の原子内で電子のエネルギーは、その原子に特有なとびとびの値(エネルギー準位)しかもつことができない。一方、無数の原子が集合した状態では、無数の準位がある幅の中に集まるため、電子のエネルギー準位は帯状に分布する。これをエネルギー帯(エネルギーバンド)といい、帯と帯の間のエネルギー準位のない部分を禁止帯(エネルギーギャップ)という。エネルギー帯でもひとつのエネルギー準位には決まった数の電子しか入れないので,電子は低いエネルギー準位から順番に詰まっていく。
 導体,不導体,半導体の違いはエネルギー帯への電子の詰まり方の違いである。

 導体では,電子が詰まっている最も高いエネルギー帯が電子で満たされておらず,ひとつのエネルギー帯の中では準位間の差が小さいので,電子は高いエネルギー準位に容易に移ることができる。このため電子は弱い電場によっても容易に移動でき,これが自由電子である。このように,物質の種類できまる何番目かのエネルギー帯の途中まで電子が入ったエネルギー帯を伝導帯といい、その下のエネルギー帯は電子で充たされている。このエネルギー帯を価電子帯(または充満帯)という。
導体では温度が高くなると原子の熱振動が激しくなり自由電子の運動が妨げられ電子が流れにくくなり抵抗率は増加する。

不導体では何番目かの価電子帯までが電子で満たされ,禁止帯の上の伝導帯には電子がない。原子の結合のために電子が使われ,余分な電子がないためである。

真性半導体(Si,Ge)では,充満帯と伝導帯の間の禁止帯の幅が比較的小さいので,熱運動によって電子が伝導帯に上がって電子が呼び出した後がホールになる。
 半導体では温度が高くなると伝導帯に上がる電子数が増加するので電流が流れやすくなり抵抗率は減少する。



不純物半導体
p 型半導体では価電子帯のすぐ上に,(B,Al、In) などのアクセプターによる準位があるのでキャリアを容易に生じることができる。

n 型半導体では伝導帯のすぐ下に  (P、As、Sb) などのドナーによる準位があるのでキャリアを容易に生じることができる。











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