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【19】電流と磁界
19−1 磁界(magnetic field)
磁石両端のFe,Ni などを引きつける部分を磁極といい,その強さを磁荷(磁気量)という。
磁気に関するクーロンの法則 静電気に関するねじれ秤で測定したと同様にして以下の法則を発見した。(1785年)
(ベクトル表示すると ) (19-1) 距離の逆自乗は万有引力,静電場のクーロン力と同じ
μ:透磁率(N/A2),m,m':磁荷(Wb=ウエーバー)
ここに真空中の透磁率μ0は である。
磁界H磁界の強さHは,単位磁荷を置いたとき,1Nの力を受ける強さと定める。
磁荷をm(Wb),力F(N)とすると
(N/Wb) (19-2)
磁荷mから距離r の位置での磁界の強さは(19-1),(19-2)から
(ベクトル表示すと ) (19-3)
磁性体
透磁率と磁束密度磁石の性質(磁性)を帯びさせることを磁化という。磁化のされ方は物質によって異なる。
液体酸素を磁石の間に通過させる
強磁性体:外部磁界の向きに極めて強く磁化される物質。(鉄,コバルト,ニッケルなど)
常磁性体:外部磁界の向きに弱く磁化される物質。(アルミニウム,白金,酸素など)
反磁性体:外部磁化と反対の向きに弱く磁化される物質。(銅,水,水素など)
磁性体の透磁率μと磁界Hの間に B=μH の関係がある。Bを磁束密度(単位は Wb/m2=T(テスラ))という。
透磁率はμ=μ0+χmの関係がある。χmは誘電体の分極率に相当する磁化率で,単位はμ0と同じ
[H/m]である)。常磁性体でχm>0,反磁性体ではχm<0である。強磁性体以外の常・反磁性体でχmはいずれも微小なので,これらを非磁性体,常磁性体を単に磁性体と呼ぶことがある。
磁界,電界の比較
@ ただ一種の電気があるのに対して,一種だけの磁気はない。
A磁気には電気の導体に当たるものはない。
B反磁性体に対応するものは電気にはない。
19−2 電流の作る磁界
導線に流れる電流が作る磁界を求める方法として次の方法がある。
@ ビオ・サバールの法則
電流素片(電流I と微小長さdsの積)の生ずる磁界を表す法則。
電流I の流れている導線の一部dsの長さの部分AA'が,P点に生ずる磁界の強さdHは
(A/m) (19-4) で表される。
r は電流素片からP点までの距離,θ はAA'の方向とr の方向のなす角度。dH の向きは,電流の流れる向きからr の向きに右ねじをまわし,右ねじの進む向きである。
はと の外積で与えられる。 ⇒ この式の中の × はベクトルとベクトルの外積を示す。
磁界の向きは,電流の向きからr の向きに右ネジを回すとき右ネジの進む向きである。
A アンペールの回路定理
任意の閉曲線に沿って磁界の強さを積分した値は,その形によらず,閉曲線を貫く電流の代数和に等しい。
(「電流によって生じた磁界中で任意の閉曲線に沿って単位磁荷(1Wb)の正の磁極を磁界に抗して1周させるときの仕事Wは,閉曲線を貫く電流の代数和 と等しい」
(19-2)からF=mH でm=1Wbとして 仕事W=H×距離から
(丸のついた積分記号は閉曲線の一周を積分することを表す。)
B アンペール等価磁石の法則
閉曲線回路に電流Iが流れるときに生じる磁界は,閉曲線を縁とし,その面に垂直に磁化の強さμ0Iで磁化された板状磁石から生じる磁界に等しい。
電流の作る磁界の例
例1 十分長い直線電流
アンペールの回路定理から
電流Iに垂直な平面内の電流を中心とした半径r の円に沿って1(Wb)の磁極を一周させるとき,力はH (N),移動距離は2πr (m)だから
仕事=H×2πr=I ∴ (A/m) (19-5)
( )
磁界の向きは,右ねじの進む向きを電流の向きに合わせたとき,右ねじのまわる向きに一致する。これを右ねじの法則という。
ビオ・サバールの法則からも求めると
例2 円形電流
ビオ・サバールの法則から
z=0の場合,,n巻きでは (19-6)
円の中心の磁界の向きは,円電流の向きに右ねじをまわすときに,右ねじが進む向きに一致する。これも右ねじの法則という。
例3 ソレノイド(単位長当たりの巻き数n)
十分長いソレノイドを考えると外部の磁界はソレノイドに平行である。図の磁界をそれぞれH1,H2,長さl の部分について考えると, アンペールの回路定理から,
H1l−H2l=0 ∴ H1=H2
H2の代わりに十分遠方を考えると,H1=H2=H3=・・・ =H∞=0 一方,ソレノイド内部を含む閉回路で考えると
Hl−0=nl・I ∴ H=nI [A/m] (19-7)
電流の作る磁界の例
直線電流 円形電流 ソレノイド
19−3 電流が磁界から受ける力
直線電流Iが角度θ,距離rの位置で作る磁界を dH' とすると,ビオ・サバールの法則から
である。
ここに磁荷mを置くと,磁荷mが受ける力 dF ' は
である。一方,磁荷mが導線の長さds部分に作る磁界Hは であり,dF' の反作用の力dFは図の下向きである。|dF|=|dF'|から
|dF|=|dF '|=
ここでBは磁束密度で真空中ではB=μ0Hの関係にある。
長さl の導線に流れる電流I が磁界から受ける力Fの大きさは
F=IlBsinθ (19-8)
Fの向きは電流 Iの向きから磁界Bの向きに 右ねじをまわし,右ねじの進む向き。または,右図に示すフレミング左手の法則による。
ベクトルの向きはとベクトルの外積で与えられる。
ベクトル表示すると =× 上記の参考と同じく,この式の中の × はベクトルとベクトルの外積を示す。
(19-8)からBの単位は[B]=[F/Il]=N/A・mである。つまり磁束密度Bで表す磁界は,単位長さ・単位電流が力を受ける強さを示している。
19−4 運動する荷電粒子が磁界から受ける力
右図のように,長さlの部分に流れる電流Iが磁界Bから受ける力Fは
F=IlBsinθ[N]
で与えられるが,この導線内の電子密度をn[m−3],導線の断面積をS[m2],電荷をe[C],電子の速度をv[m/s]とすると長さl [m]の中にある電子の数はnS l だから,電子1個が磁界から受ける力f [N]は,I=vSne(18-1電流参照)を使って
(19-9)
で与えられる。電荷q[C]の荷電粒子が磁界B[N/Am]から受ける力f は
f=qvBsinθ (19-10)
で与えられる。これをローレンツ力という。
はとの外積で与えられる。ベクトル表示すると =q× この式の中の × はベクトルとベクトルの外積を示す。
ローレンツの向きはq>0 の場合,荷電粒子の速度v の向きから磁界Bの向きに右ねじをまわし,ねじの進む向き。q<0 の場合は逆の向きになる。ローレンツ力f は電場,磁場から受ける力の和 =e(+×)であるが,ここでは磁界から受ける力だけを考える。
例1 一様な磁界Bの中で,磁界に垂直に質量m,電荷q(>0)の荷電粒子が速度vで運動をはじめた。その後の運動について論ぜよ。
解 荷電粒子はvとBに垂直な図の向きにf=qvBの力を受ける。
この力は一定で,常にvの向きを変えるためだけで速さを変えることはない。つまりf=qvBが向心力になる等速円運動をする。
運動方程式から,軌道半径を r とすると加速度は v2 / r であり,
(一定)
また,円運動の周期Tは
2π r=vT ∴ (Tは速さvに関係しないことに注目)
例2 電子の比電荷
写真の白い線が陰極線
図のような真空装置で陰極から初速度0で出た電子(質量m,電荷−e)を電位差Vで加速し,スリットS1から,紙面の裏から表へ貫く磁束密度Bの一様な磁界に垂直に入射させた。電子は磁界中で半径r の円軌道を描き,半周した後,スリットS2から出てくることが検出された。電子の比電荷e/mを求めよ。
解 電界のした仕事が電子の運動エネルギーにすべて変わるから,電子の速さをv
とすると, eV=
磁界中ではローレンツ力が向心力になる等速円運動をするから
両式より ⇒ 電荷qの電子以外の場合でもこの関係は成り立つから,q/mが等しい粒子では(V,B一定で)r が同じになり,質量分析器はこの原理を使った装置である。
右図のように直方体の導体または半導体に電流I を流し,これに直交する方向に一様な磁界Bをかける。
荷電粒子が負の場合,ローレンツ力を図の下向きに受け直方体の下面が負,上面が正に帯電し上面から下面に向かう電界が生じる。負の電荷は生じた電界から図の上向きにqEの電気力を受け,これとローレンツ力がつりあって電荷は直進する。
電荷が負の場合(n半導体の場合など)はVa>Vb,
電荷が正の場合(p半導体の場合など)はVa<Vbになる。このように,磁界中の導体,半導体に電流を流すと,荷電粒子がローレンツ力を受けて,磁界,電流に直交する方向に電界が生じる現象をホール効果という。この電界の向きによって荷電粒子の正負,電荷密度,磁束密度などが測定できる。
19−6 平行電流間にはたらく力
右図のように,真空中で距離r [m]隔てて張った直線導線P,QにそれぞれI1,I2[A]の電流を,同じ向きに流す。このとき,Pを流れる電流I1がQの位置に作る磁束密度の大きさB1[N/A・m]はである。
導線Qの長さl [m]の部分はこの磁界から の大きさの力を受ける。Fの向きは右ねじの法則から図の向きである。
このとき,作用反作用の法則から,導線PもQから大きさ (19-11)
の力を受け,図の向きになる。このことから,互いにおなじ向きに電流を流すと引力がはたらくことになる。P,Qに流す電流の向きを互いに反対向きにすると,斥力がはたらく。
[電流の単位]
真空中で距離1[m]隔てて張った平行導線に等しい大きさの電流を流し,導線1[m]当たりに働く力の大きさが,2×10−7[N]のとき,等しい大きさの電流を1[A]と定める。したがって,(19-11)式でI1=I2=1[A],r=1[m],l=1[m]とするとから,
真空の透磁率μ0はである。
19-2 電流の作る磁界
問115 真空中に4本の十分に長い直線状の導線A,B,C,Dが紙面に垂直で互いに平行に張られている。A,B,C,Dは真上から見ると図に示すように1辺がr [m]の正方形の各頂点をしめている。導線A,B,C,Dを流れる電流の大きさはどれも同じI[A]であり,その向きはAでは紙面の裏から表に向かう向き,B,C,Dでは紙面の表から裏に向かう向きである。導線Aの位置に導線B,C,Dを流れる電流がつくる磁場を合成したものの強さを求めよ。
問116 2本の平行な長い導線A,Bと1巻きの半径RのコイルCが配置されている。導線Aに矢印の向きに,1.0Aの電流を流した。ただし,a=0.10m,b=0.20m,R=0.050mとする。
(1) 導線Aから距離0.10m離れた地点Dの磁場の強さHを求めよ。
(2) 導線Bにどちら向き(上向きか下向きか)に何Aの電流を流すと,D点の磁場の強さは0になるか答えよ。
(3) 導線Aに矢印方向に1.0A,導線Bに反対方向に3.0Aの電流を流すとき,コイルの中心Oの磁場を0にするためには,
コイルのどちら向きに(時計まわりか反時計まわりに)何Aの電流を流せばよいか答えよ。
問117 図のようにx y平面上の2点P(−a,0),Q(a,0)を通り,x y面に垂直な2本の直線状導線L1,L2がある。この導線に上向きに等しい電流I を流す。
(1) 原点O(0,0)における磁場の強さはいくらか。
(2) 点(0,a)における磁場の向きを示し大きさを求めよ。
19-3 電流が磁界から受ける力
問118 1図のように真空中でy軸に平行にx=±a,z=0に固定された十分長い2本の導線に+y方向の電流Iを流す。なお,磁束密度Bと磁界Hの間には真空の透磁率を用いてB=μ0Hの関係がある。
(1) 磁束密度Bのx方向の成分をBx,z方向の成分をBzとする。x軸上におけるBxとBzをxの関数として,またz軸上におけるBxとBzをz の関数としてそれぞれ式で書け。
(2) 上の結果をもとにしてx z平面内における磁力線のおおまかな形および向きを図示せよ。
次に,2図のように,質量m,長さl の導体棒PQがy z平面内(x=0)においてy軸に平行な形状を保ったままz方向になめらかにすべることができるような装置AB,CDを設ける。この装置を通して導体棒PQに−y方向の電流 J を流す。なお,装置AB,CDを流れる電流が作る磁界は無視できるものとする。
(3) 導体棒PQのx y平面からの高さをh とするとき,導体棒PQが磁界から受ける力の向きと大きさを求めよ。
(4) −z方向に重力がはたらくとき,導体棒PQに磁界からはたらく力と重力がつり合って導体棒が静止した。
このとき導体棒PQにはたらく力のつり合いの式を書け。また,この式をhについて解いて導体棒PQがつり合う高さhを求めよ。まお,重力加速度をgとする。
(5) 導体棒PQに流す電流を小さくしていくとやがて導体棒がつり合いの位置をもつことができなくなる。導体棒PQがつり合いの位置をもつための電流
Jの最小値を求めよ。
19-4 運動する荷電粒子が磁界から受ける力
問119 右図の枠内には,紙面に垂直に一様な磁界がかけられている。 いま,左方から,質量1.7×10-27[Kg],電荷1.6×10−19[C]の陽子が,2.0×105 [m/s]の速さで飛んできて円運動した。磁束密度を0.40[T]とする。
(1) 陽子に働く力の大きさを求めよ。
(2) 磁界の向きを,で答えよ。
(3) 円軌道の半径を求めよ。
(4) 磁界だけを2倍にした場合,陽子の軌道はどのように変化するか。
(5) 速度だけを2倍にした場合,周期はどのように変化するか。
問120 図のように磁束密度B[Wb/m2]の一様な磁場の中で,Bの方向に対してθ[rad]の角度をもって速さv[m/s]で運動している質量m[Kg],電荷q[C](q>0)の荷電粒子がある。
(1) この荷電粒子がBとvに垂直で受ける力の大きさは何[N]か。
(2) ある磁力線上に点Oから出発したこの荷電粒子がらせん運動をして次に再びその磁力線上の点Pを通るまでに要する時間は何[s]か。
(3) 直線OPの長さは何[m]か。
(4) この荷電粒子がOからP間でらせん状に走った距離は何[m]か。
(5) 磁束密度を2Bにした場合,(2)で求めた値は何倍になるか。
問121 次の文章の[ ]を適当な文字あるいは式で埋めよ。
直方体をしたN型半導体(長さl,幅d,高さh)を図のように置き,そのx軸の正の方向に強さE1の電場をかけると,この半導体の電流の担い手(キャリアー)である自由電子が [1] の方向に移動して電流が流れる。このときz軸の正の方向に磁束密度Bの一様な磁場をかければ,キャリアーは [2] の方向にローレンツ力を受けることになる。このため半導体の手前の面Pは [3] に帯電し,向こう側の面Qは
[4] に帯電して [5] の方向に電場が生じる。その電場の強さE2は,キャリアーが電場から受ける力とローレンツカとのつりあいによって最終的に決まる。このように半導体に磁場を加えても,キャリアーにはたらく二つの力がつりあい,キャリアーは[6]
の方向に一定の速さで直進していると考えてよい。
ローレンツカと電場E2による力とのつりあいから,半導体内でのキャリアーの速さを求めると [7] となるので,半導体の単位体積当たりのキャリアーの数をn,電気素量をeとすれば,半導体を流れる電流の大きさは [8] のように表される。
一方,半導体の抵抗率をρとすれば,半導体を流れる電流の大きさはオームの法則から [9] と書ける。 [8] と [9] で与えられる電流の大きさは当然等しく,これからN型半導体のキャリアーの数密度nが電場の強さE1とE2の比を使って [10] として表されることになる。
19-6 平行電流間にはたらく力
問122 (1) 真空中で無限に長い直線上の導線に強さI[A]の電流が流れているとき,導線からの距離r[m]の点における磁界の強さを求め,その向きを図1に記入せよ。ただし,印は電流が紙面に垂直に表から裏へ流れていることを示し,印はその逆の状態を示す。
(2) つぎに2d[m]離れて平行に置かれた2本の無限に長い直線上の導線に強さI[A]の電流が反対向きに流れている場合について考える。
(イ) x軸,y軸を図2のようにとり,直線電流をz方向とする。x y平面上の点P(x,y)における両電流による合成磁界の強さをx,y成分に分けて求めよ。
(ロ) 右側の直線電流は左側の直線電流によって磁界から力を受ける。導線の単位長さに働く力の大きさを求めよ。
その向きを図2に記入せよ。ただし,真空の透磁率をμ0[N/A2]とする。
(ハ) 左側の直線電流も(ロ)と同様に力を受けるので,2直線電流の間には力が働く。この力は斥力か,引力か。
問123 直線状の導線に電流を流すと導線のまわりに磁界が生じる。真空中で考えよう。真空の透磁率をμ0[N/A2]とする。図に示すように,一本の直線状の導線をx−y平面に垂直に原点を通るように置く。これを導線1と呼ぶことにする。以下,導線の太さは無視できるものとする。また座標の単位はメートル[m]である。導線1に紙面の表から裏に突き抜ける方向にI1[A]の電流を流す。
(1) 点Q(1,1)での磁界の強さを求めよ。
さらに,点R(k,0)(k>0)を通り x−y平面に垂直な2本目の直線状の導線,導線2を設置しよう。導線2には紙面の裏から表に突き抜ける方向にI2[A]の電流を流す。
(2) 導線2の長さl [m]の部分が磁界から受ける力を求めよ。
(3) 導線2を導線1と平行に保ちかつ導線1との距離も一定にしたまま,導線1のまわりをゆっくり一周させた。このとき,磁界は導線2に力を及ぼしているのにもかかわらずこの力のした仕事は0であった。この理由を説明せよ。
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