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【15】光波
光とは,紫外線,可視光線,赤外線,X線,γ 線も含めた電磁波をいうが,狭義には可視光線である波長380〜810nmの電磁波をいう。
光速
ガリレオ(1607年) 光速の有限性への挑戦。
古くから 光の速さは無限に大きいものと生活経験から信じられていたことに疑問をもち,光が瞬間的に伝わるものではなかろうということを,空中放電の際, 遠く離れた雲の間に伝わる電光の様子から予想していた。そこで,光が伝わるのに時間を要するか否かの実験を試みた。レーマー(Reomer1676年)(1675年の説もある) もっと詳しく
ガリレオの著した「新科学対話」の中で,「夜,灯を持った 2人の人A,Bが,1〜2km 離れて向かい合って立つ。初め,A, Bともに自分の灯を手で隠しておく。次に,AはBの方を見ながら,手を灯から素早く離し,Bに光を送る。BはAの光を認めると,反射的に手を灯から離し,Aに向けて光を返す。Aは光を送ってから,Bの光を認めるまでの時間を観察する。続いて,AB 間の距離を2〜3km に延長して,同じことをくり返す。光が伝わるのに時間を要するならば,距離を延長した効果が現れるはずである」。とした。しかし,この時間を人の知覚でとらえるには短すぎてこの試みは失敗に終わった。因みに,1Kmを光が伝わるのに約3×10-9秒だから人間の感覚で測定することは所詮無理だが,光速が有限性かもしれないということに挑戦したことには意義がある。
地上の光源を用いた光速の測定に初めて成功した。歯車を回転させ,歯の隙間からの光が鏡での反射光が往復する時間と歯車の回転数の関係から光速を測定した。フーコー(J.Foucault 1862年) もっと詳しく
米国国際度量衡委員会のイベンソンが安定化したレーザー光の周波数(原子時計と対比)と波長(干渉を用いる)を精密測定し光速を測定。 2.99792458×108m/sという高精度の値を得た。1983年国際度量衡総会はイベンソンの結果を基に「光が真空中で1/299792458秒間に進む距離を1メートルとする」が採択された。このことによって従来のKr86を用いた定義が廃止された。
入射,反射,屈折光は境界面に垂直な同一平面内にある。
屈折の法則
「屈折光は入射面内にあり,法線に関して入射光と反対側にある」
「入射角θ1と屈折角θ2の間には n12= の関係がある」。これをスネルの法則という。
n12を媒質2の媒質1に対する相対屈折率(relative refractive index) という。
媒質1,2の屈折率,光速,波長がそれぞれn1,n2,c1,c2,λ1,λ2であり入射角をθ1,屈折角をθ2とすると,媒質2の媒質1に対する屈折率n12は
(15-1) である。
これは n1・sinθ1=n2・sinθ2(屈折率 n×sinθ =一定)
つまり,それぞれの媒質についてn・sinθが一定である。
真空に対する屈折率を絶対屈折率(absolute refractive index)という。指定がない場合,屈折率は絶対屈折率をいう。
[注]
右図のように屈折光が入射光の延長線より内側に屈折するのは c1>c2の場合(例えば空気から水に進む場合)である。
真空から水に進む場合でも音の場合c1<c2 だから外側に屈折する。
媒質1,2,3の絶対屈折率をn1,n2,n3,光速をc1,c2,c3,入射,屈折角をそれぞれθ1,θ2,θ3,θ4とすると,媒質2の媒質1に対する屈折率n12,媒質3の媒質2に対する屈折率n23,媒質4の媒質3に対する屈折率n34は
である。媒質4が媒質1と同じ場合,θ4=θ1になる。つまり媒質4と媒質1の光は平行になる。
質問1 屈折率2の媒質での光速,波長は真空の何倍か。
質問2 n12とn21関係は。
質問3 ガラスの屈折率を3/2,水の屈折率を4/3とすると,ガラスの水に対する屈折率はいくらか。
[答] 質問1 ともに1/2倍 質問2 n12=1/n21 質問3 n(ガラス)/n(水)=(3/2)/(4/3) = 9/8 (水の方が速い)
フェルマーの原理
光の直進,反射,屈折を説明することのできる原理。1658年フェルマーが考えたもので,
『光がある点から別の点に進むときに,2点間の光学距離が最短になるような道筋を進む』というもの。
その後,「光学距離が極限をとる」と修正された。
光がP→O→Qと通過する所要時間t は
左図のようにa,b,c,x をそれぞれの長さとすると
から ∴
( ∵ )
反射
媒質1に角度θ1で入射した光は角度θ1で反射する。
反射の法則 「入射角と反射角は等しく,反射光線は法線に関して入射光と反対側にある」
つまり,光は境界面で反射するとともに屈折もする。
反射,屈折に関する諸現象
@ 全反射
c1>c2の場合,媒質2から媒質1に光を入射させる。入射角θ2を大きくしていくと屈折角θ1が大きくなり,ある入射角θ0以上になると媒質1に屈折できなくなり,反射光だけになる。この限界の角度θ0を臨界角といい,この現象を全反射という。全反射が起こるのは光速が小さい媒質から光速が大きい媒質に進む場合のみである(例えば水から空気に進む場合)。光ファイバー(医学用,通信用)などに使われている。
例1 右図で,媒質1,2の屈折率をそれぞれn1,n2入射角をθ2,屈折角をθ1として媒質2から媒質1に光が進む場合を考える。θ2=θ0(臨界角)のときにθ1=90゚になり全反射が起こるから
媒質2の媒質1に対する屈折率はn12= (15-2)
媒質1が空気(n1=1.000293≒1とする) ,媒質2を水の場合(n2=4/3) sinθ0=3/4=0.75 ∴ θ0≒49度
例2 右図のように屈折率がの物質のAB面に光が入射しBC面で全反射した。入射角iは何度以下か。
全反射の条件はsini 0= ∴ i =45゚
図より r=30゚だから,
n== よって i ≦45゚
A 位相変化(phase difference)
光が波動性を示す現象の中で,光学的に疎な媒質(屈折が小さい)から光学的に密(屈折が大きい)に進むときの反射の場合だけ位相がπ(rad)変化する。他では変化しない。これは,後述の薄膜,光くさび,ニュートンリングの干渉の条件を決めることに関係する。
例 光が空気から水に進む場合の反射
B 光路長(光学距離)(optical path)
長さl の距離を真空中で波長λ0 の光が進む場合,この間の波数はl/λ0,屈折率nの媒質中では
となる。つまり,屈折率nの媒質中の波の数は真空の場合のn倍である。
この真空中の長さに置き換えた距離を光路長 (光学距離)という。
屈折率n の媒質中の光路長は真空のn 倍である
C 浮き上がり現象
(a) 右図のように媒質2中の深さhにある物体を空気(媒質1)中から見た場合
真上から見た場合( i, r≒0 )
水の場合 n12=4/3 とすると
r≒0でない場合
OQ= htan r=h' tan i
∴
斜めから見た場合
右図の角度をθとし,見かけ上の位置をP'とすると図の x, yは
で与えられる。
(b) 媒質2から空気中の物体を真下から見た場合
(a) の逆を考えればいいから h'=n12h
例えば,水中にいる魚が空気中の身長1mの子供を真下から見上げると
から 1.3mに見ていることになる。
(c) ガラスなどが途中にある場合
空気中に置かれた屈折率n のガラスの下側の物体Pに向かって上側から進んできた光は
∴ PP'=BD=BC−CD= つまり,P'はPより遠くなる。
D プリズム
頂角αのプリズムの一面ABに光が入射角i で入射し屈折角i' で面ACから屈折するとき i=i' ,r=r'のとき偏角δ(入射光と屈折光のなす角度。右図参照)が最小になる。
右図より δ=(i−r)+(i'−r')=(i+i')−(r+r')=(i+i')−α
r +r'=α ・・・ (a) δ=i +i'−α ・・・ (b)
屈折率の法則から
sini=nsinr ・・・ (c) sini'=nsinr' ・・・ (d)
i,α≒0の場合 (c),(d)は i≒nr ,i'=nr' と見なすことができるので,これを(b)に代入して
最小偏角は δ=n(r+r')−(r+r')=α(n−1)
i,r≠0の場合 i=i'=i0,r=r'=r0,このときδ=δ0とすると
(a)から2r0=α ∴ r0=α/2,(b)から δ0=2i0−α
ここでα≒0として近似すると上記と同じ結果になる。
α≒0でない場合
(b)式のαは一定値だからδはi の関数だから,i のある値に対してδが最小値になるので
・・・(e)
(a)から ・・・ (f)
(c)から ・・・ (g)
(d)から ・・・ (h)
(e)(g)(h)を(f)に代入して
r=r' (r<0不適) ∴ i=i'
反射率と吸収率
物体に光が反射するときの割合を
反射率ρ=≦1と定める。
媒質がともに等方な透明体の場合の反射率は
垂直に入射する場合は
右図に空気からの光がガラスで反射する場合の例を示す。
一般に金属のρは大きく,光沢が白い金属ではρは入射光の波長に依存しない。表面が特有の色を呈する金属ではその色光の反射率が特に大きい。
ρの例(垂直入射の場合) 3800Å 8100Å 銅 44.5% 98.2% 金 37.8% 97.7% 銀 92.8% 98.6% アルミニウム 92.5% 86.3%
→ 波長が大きいと赤く見える
→ 波長によらず白く見える
吸収・・・・ 屈折光の強さは媒質の吸収のため弱められる。
境界面に入射直後,距離x それぞれの強さをφt0,φtx とすると
φtx=φt0e - λx(Beerの法則)
λは吸収係数(波長による定数)
吸収率a は (a≦1)
透過率τ= (φtrは透過光強度,φ0は入射光強度) ρ+a+τ=1である。
15−2 回折・干渉(diffraction・interference)
回折は1665年グリマルディによって発見された
光が障害物の背後まで回り込み,幾何光学的には陰影となるところまで達する現象が光の回折である。回折は波長が長いほど起こりやすい。光源とスクリーンが障害物から有限の距離にあるとする扱いをFresnel級回折,十分遠方にあるかレンズで集光するように扱う場合をFraunhofer級回折という。Fresnel級は積分を使い計算が複雑なので高校ではFraunhofer級回折を扱う。
(1) ヤングの干渉実験
ヤングが1807年に行った光が波であることを証明する実験で、図ような複スリットS1,S2とスクリーン上の一点Pの距離をそれぞれ l1,l2,光軸上の点OとPとの距離をx,またS1,S2と光軸の距離をそれぞれ d/2,複スリットとスクリーンの距離をl とする。ABでの光が同位相なら
明条件 |l1−l2|=mλ
暗条件 |l1−l2|=(2m+1) (m=0,±1,±2,±3・・・ ) (15-3)
でスクリーン上に明暗が現れる。光源が白色光源の場合は色のついた明暗になる。
@ 明暗条件をl,d ,x を使って表すと以下の通り。
=の場合, 2=L2+(x+)2 ,2=L2+(x−)2
2−2=2d x ∴ −= (l≫d として近似する。これをFraunhofer級の扱いという)
∴ =× 2m (明線)
=×(2m+1) (暗線) (m=0,1,2,3,・・・ mを干渉次数という)
O点からの距離 xで表すと,x= (明線) ,x= (暗線)
干渉次数が1異なる場合のxが干渉縞の間隔xだから x=
この式から,光の波長の測定が可能である。このように,スクリーン上に明暗の縞が現れることは,光が波動であることを証明するものである。
x= から分かることは,
(a) l,dが一定の場合,x とλは比例の関係だからスクリーンの光軸上から遠い側に波長の長い赤,近い側に紫色が並ぶことが分かる。
単色光源の場合(He-Neレーザー光) 白色光源の場合
光軸上はあらゆる波長の光が重なるので,白色(色がつかない)になる。単色光源の場合は,明暗が現れるだけである。
(b) d,λが一定の場合,xとl は比例するのでスクリーンが遠くなるほど,x は大きくなる。
(c) l,λが一定の場合,xとd は反比例の関係だから,複スリット幅d を大きくするとx は小さくなる。d が十分大きくなると干渉縞は見えなくなる。
x =の式には,単スリットSの幅が変数として関係してない。
単スリットの幅をa とすると,スクリーン上の強度I は 複スリットからの角度をθとすると強度I で与えられる。
ただし,である。
sinのついた項が,複スリットを構成するスリットの幅による強度,cosについた項が複スリットによる強度である。この両項が重ね合わされて実際の干渉模様に なる。複スリットの片方だけ塞ぐと前者による干渉模様しか現れない。
A 単スクリーンSはなぜ必要か
白色光源を用いた場合Sがないとスクリーン上に明確な干渉縞は現れない。単スリットSは,光の位相をそろえるため,つまり,光を可干渉性にするために必要だが,レーザー光源のような位相のそろっている光源の場合は不要である。このような光を可干渉性(coherent)の光という(「波の性質」13-3式で同位相の条件が必要なことと同じである)。図のように単スリットの幅をa,単スリットと複スリットの距離をb,複スリット幅をd とすると が干渉縞が明瞭に見える条件である。
Sの位置をずらすと,干渉縞はどう変化するか。
(1)のヤングの干渉実験の図において,単スリットSを上にy 移動させたときに,スクリーン上の明線が暗線に変わった場合,単スリットSと複スリットの距離を Lとすると,
だから, である。
B 複スリットとスクリーン間に屈折率nの物質を満たすと,縞模様はどうなるか
@ の x=からl,d 一定とすると波長λがλ/nに変化するので, つまり真空の場合の 倍になる。
このことから,複スリットとスクリーン間に屈折率n の物質を満たしたときの干渉縞のずれx から,満たした物質の屈折率を測定することができる。
CS1だけに屈折率n,厚さt の物質を置いた場合,縞模様にどうなるか
屈折率n の物質中の光学距離は真空の場合のn 倍になる(「反射,屈折に関する諸現象」B参照) ので,複スリットS1,S2からスクリーン上の任意の点Pまでの光学距離は
m番目の明線で考えると
∴ xm'==+ ∴ x= −=
n>1だからx>0 つまり 屈折率n の物質を置いた側に明暗の縞が平行移動することがわかる。このことから,物質の屈折率を測定できる。
D スクリーンを遠ざけると干渉縞はどう変化するか
d,λが一定の場合,同じ干渉次数mではどのように変化するか。
⇒ @から明線が現れる位置は x= だから,x と l は比例するから,スクリーンの移動距離をLとすると,L=l では2x,L=2l で 3x になることがわかる。
d,λが一定でスクリーンを遠ざけた場合,同じxでは,暗くなってから再び明るくなり,ある干渉次数mの明線が次の明線に変わる。このとき,スクリーンの移動距離と干渉次数mはどのような関係になるか。
⇒ スクリーンを遠ざけると干渉次数mはm−1になる(L=l でxが2xになることからわかる)。
干渉次数mでは ,干渉次数 m−1では だから,
両式から である。m=2が m=1になるのはL=l,m=3がm=2になるのは
L= ,m=4がm=3になるのはL= である。これをグラフに描くと右図のようになる。
(2) 単スリットによる回折,干渉
単スリットに光を当てると回折光による干渉模様が観測される。水波の場合は単スリットから回折することはあっても干渉は起こらない。なぜ,光の場合は干渉模様が現れるのか。
幅d の単スリット上で長さを等分するA,B,C,D,Eでの光の位相がπ/2ずつずれている場合,これら光は同位相と考えられるので,A→Pの光とB→Pの光は互いに打ち消し合う。同様にC→Dの光とD→Pの光も互いに打ち消し合って,AB間とBC間に互いに位相差がπ/2の関係の光は打ち消し合う。よって,AP−EP=mλ の場合にスクリーン上のP点は暗線になる。光は水波と異なり,スリット上に点光源が連続していると考えられるので,単スリットからの回折光どおしが干渉するのでスクリーン上に干渉模様を作る。では,干渉条件はどのようなものになるか。単スリットとスクリーンまでの距離をl とする(l は十分大きいものとする)と,上記の理由により,
AP−EP=≒dtanθ≒dsinθ=mλ が暗線
dsinθ=(2m+1)λ が明線 になる。(m=0,1,2,3,・・・) (15-4)
光源に白色光を用いると各干渉次数mごとに回折スペクトルが現れる。光軸に対して外側が赤,内側が紫になるよう分布するが,直進入射(θ=0,m=0)では明るくなるだけで色は見られない。
この結果とヤングの実験を比較してみると,形式的には明暗が逆である。つまりヤングの実験では=mλ が明線だが,単スリットの場合はこれが暗線条件である。また,d がヤングの実験では複スクリーン間隔,単スリットの場合はスリット幅である。ヤングの実験でスクリーン上に現れる干渉縞は上記@(c)で記したように,複スクリーンを構成するスリットの幅による干渉模様と複スリットによる干渉模様が現れるが,複スリットを構成するスリットの幅は,複スリットの間隔より小さいから,複スリットを構成するスリットによる干渉縞の間隔の方が大きい(上記@参考)。
詳しい計算によるとθ=0 のスクリーン上の強度I0すると,回折角θ での強度I (θ)は
I (θ)= であり,右図のような分布になる。
ピンホールによる回折像
針で小さな穴を開け光を当てレンズを使って集光して観察すると右図のような同心円の明暗が現れる。これはピンホールによる回折光が干渉してできた干渉模様である。ピンホールカメラと称する,暗箱に穴を開けるとスクリーンにあたる箱の一面に像が写るが,穴とスクリーンの距離がある値のときにはっきりと像を見ることができる。レンズがないのになぜこのようにことが起こるのか。
ピンホールの半径a が小さいとき,第1暗環を回折像としていいので,
AP−BP=,AP=
BP=
∴ AP−BP= よって ρ=
ピンホールの半径a が小さいと回折暗環が大きくなることがわかるが,これはカメラの「絞り」に関係している。つまり,絞り値を大きくすると回折による「ボケ」が無視できなくなるが,絞り値を小さくすると,「分散」によって焦点深度の浅い(ピントの合っている範囲が狭い,シャープでない)写真になる。人間の顔などをソフトにとるときにはこの方がいい場合もある。
引き伸し機の場合も同様である。最近の,ただシャッターを切ればいいだけのカメラではこのような技は必要ないのだが。
ヤングの実験に似た干渉実験装置(ヤング擬き)
(a) フレネルの鏡
2枚の鏡を角度θ をなして接合し,右図のSに点光源を置く。それぞれの鏡からの反射光の交点からS1,S2が見かけ上の光源(ヤングの実験の複スリットと見なせる)と見なせる。この結果右側のスクリーン上に干渉縞が現れるので
d=S1S2=2btanθ≒2bθ
∴ x=
(b)フレネルのバイ(複)プリズム
頂角が小さいプリズム2個を右図のように接合したプリズムに光源Sから光を送ると屈折光はS1,S2がヤングの実験の複スリットの位置に相当しスクリーン上に干渉縞が現れる。
δ=(n−1)θだから (反射,屈折に関する諸現象D参照)
d=S1S2=2btanδ≒2bδ=2b (n−1)δ
∴ x=
(c) ロイドの鏡 (H.Lloyd 1834年)
平面鏡すれすれに光源S1から光を入射させると、見かけ上の光源S2から出てくるように反射してスクリーン上のbcに干渉縞を作る。平面鏡での反射では位相がπずれる。
ヤングの実験のd が2aに相当するので
x= によって波長を測定することができる。
平面鏡 と同一面内のスクリーン上の点に、ヤングの実験での「0次」の干渉は見られない。
(3)回折格子(grating)
ヤングの実験では複スリットは2個だけであったが,スリットを等間隔に数百本〜数千本以上並べて作られたものが回折格子である。透過型と反射型があるが,透過型は光学的に磨かれたガラスの表面に等間隔に傷を付け,傷のついてない部分からの回折光の干渉を利用するものである。一方,反射型は平滑な表面に等間隔に傷をつけて,反射光の干渉を利用するものである。CDの表面に光を当てると色がついて見えるが,これが反射型回折格子と同等のものであり,CDにつけられた溝の間隔を測定することができる。
透過型回折格子で,格子定数d (格子間隔がd)の回折格子の,格子面に対する角度θ 方向の回折光による干渉光が強め合う条件は,隣り合う光線の光路差は十分遠方で考えれば dsinθだから
dsinθ=mλ (m=0,±1,±2,±3・・・ )である。 (15-5)
回折格子は,ヤングの実験に比べてスリットが多数あるので,明線が鮮明に現れる(右上写真)。
左図が回折格子の測定の方法である。主極大(m=0)から左右にm=1での距離x1,m=2での距離x2を測定する。角度が小さい範囲ではそれぞれの回折角θ は
sinθ≒tanθと見なせるので,m=1についてはλ=d sinθ1≒d tanθ1= から波長を測定することができる。白色光源を使うとλ とx は比例するので同一干渉次数では外側が赤,内側が紫色になるように並ぶ。
格子定数をd,格子数をmとすると,回折強度I は,θ=0での強度をI0,回折格子の隙間の幅をaとすると ただし,である。
第1項βのついている項は幅aの1本のスリットの強度,第2項γについた項は間隔d の無限に狭いm本のスリットによる強度を示す。
(4)薄膜干渉
シャボン玉に色がついたり,雨の日に路面の水たまりに少しだけ油があると鮮やかな色がついて見えることが ある。これらがなぜ起こるのかを考えてみるために,屈折率がそれぞれ 1,n,n2の空気,油,水が図のようにある場合の干渉を調べる。油の厚さはd,n>n2である。
空気から油に入射角i で入射した2光線A,E を考える。光線Aは油との境界面で屈折角 rで屈折した後,油の底面Cで反射し,油と水の境界Dに達した後再び空気中へ屈折する。一方,光線Eは境界Dで反射し光線Aと干渉する。ABCD,EDFの2光線の経路差は,BCに直交するDからの足をB1,BCの延長線とDから鉛直に下ろした線との交点をB2とすると
B1C+CD=B1C+CB2=2dcosr,光路差は2ndcosr である。
光線EがDで反射するときに位相がπずれる(n>1)(「波の性質」波の位相変化参照)が,光線AのCでの反射ではn>n2なので位相変化はない。
よって,Fで見たときの明暗条件は,反射光の一方だけの位相がπずれることにから
明条件 (m=0,±1,±2,±3・・・ ) 2ndcosr を入射角i で表すとである。
暗条件 (15-6)
この結果,n,d が一定の場合,波長λ とcosr が比例するので白色光源の場合,色がついて見えることがわかる。
@ 明暗条件は屈折率の大小関係で位相変化が変わり明暗条件が変わる。
左図でそれぞれの屈折率を n1,n2,n3とすると
n1<n2<n3 で反射光の干渉では,いずれの反射光も位相がπずれるため
2n2dcosr=mλ が明線条件
(n1>n2>n3はいずれも位相変化が起こらないので同じ結果になる)
n1>n2<n3 で反射光の干渉では,n2からn3への反射でのみ位相がπずれるので
2n2dcosr=mλ が暗線条件
A 透過光による干渉
左図で上から光を入射し下側で見た場合の干渉では
n1<n2<n3 では黒丸の位置での反射でn2からn3の場合のみ位相がπずれるから
2n2dcosr=mλ が暗線条件
n1>n2<n3 では反射で両方とも位相がπずれるから
2n2dcosr=mλ が明線条件
つまり,反射光と透過光で明暗条件が逆になることがわかる。
B 薄膜の厚さd が大きくなると,白色光源でも色が現れない。シャボン玉に色がついて見えるが石けんの濃度を増やすと見えなくなる場合も同じ。
理由1:
波長λ1,λ2(λ1>λ2とする)の接近した光を考える。λ1の波長の光がm次の干渉をしているときにλ2の波長の光がm+1で干渉して互いに打ち消し合うと,
2ndcosr=mλ1=(m+1)λ2 ∴ λ1−λ2=
dが大きいとmも大きくなるので,λ1−λ2が小さくなり接近した波長の光が干渉し合って弱め合うので特別な色が見えなくなる。
理由2:
dが大きいと多数の位相,波長の多重反射光と入射光が重なるので色の特徴を持たなくなる。
C 反射防止膜
ガラスの表面にガラスの屈折率より小さい薄膜を塗布することによりガラスへの入射光とガラス上面での反射光の干渉により反射光を最小にすることができる。薄膜の屈折率をn1とすると(ガラスの屈折率n=1.50とするとn1<nとする)反射光はともに位相がπずれるので面に垂直の場合
2d= が暗条件である。d の最小値はm=0だから d=
反射防止膜としてNa3AlF6(氷晶石n1=1.38)を用いると
d=
波長によってd が異なるが,明るく見える黄色に対して計算すると,補色である紫色がレンズの表面に見える。反射を防止すると,透過光が強くなるということにある。反射防止膜は,カメラ,望遠鏡などには必ず必要なことである。反射防止膜として他にはMgF2も用いられる。
D 反射光は何色に見えるか
上記の@の屈折率の条件がn1<n2>n3 である場合(空気−ガラス−空気のような場合)に,真上から見た場合に反射光の干渉によって何色に見えるかを考えてみる。可視光線の波長λ を λ=4.0〜7.0×10-7m,n2=1.4,d=4.0×10-7mとすると,
2n2d= が明条件だから, λ=である。干渉次数mに対する波長を求めると
2n2d=11.2×10-7mだから,これをAとして
m=0: A×2=22.4×10-7m 見えない,
m=1: A×(2/3)=7.47×10-7m 見えない,
m=2: A×(2/5)=4.48×10-7m 青色
つまり,この場合青色に見えることがわかる。ガラスの厚さによって見える色が異なるので,m=0 の場合の範囲を求める。
上式でm=0とすると d===(0.714〜1.25)×m
ガラスの厚さd が d<0.714×10−7, d>1.25×10−7mでは特定の色が現れないことがわかる。
E 針金に石けん膜を作って鉛直にして見ると,下に行くほど色の間隔がなぜ狭くなるのか。
石けん膜の厚さをd,屈折率をn,屈折角をr1,r2とする。明線条件はDの場合と同じになるから
波長λ1で 2ndcosr1= ,波長λ2で2ndcosr2=
両式から cosr1−cosr2=
よって,d が大きいと cosr1−cosr2が小さくなる。つまり縞間隔が小さくなることになる。
石けん膜は下にいくほど厚くなる。石けんなどの濃度によってその厚さは異なるがおよそ1〜10×mである。
また,上が紫,下が赤になるような色帯ができている様子がわかるが,これは第一式から(狭い範囲でd を一定と考えれば)λとcosr が比例するので波長の長い赤の場合r が最も小さいと考えられるが,分散(波長によって屈折率nが異なる。15-4スペクトル参照)も関係してくるのでその要素も考慮しなければならない。
(5)光くさび
光学的に磨かれた2枚のガラスを重ね,片方だけに薄い紙などを挟むと少しだけ傾きができる。これに上から白色光を入射して,入射側から見ると干渉模様が観測できる(右写真参照)。これを光くさびと呼ぶことがある。
2枚のガラスが空気中に置かれている場合を考える。上のガラスの下面Qで反射した光と,下のガラスの上面で反射した光(位相がπずれる)が干渉し上から見ると干渉模様が見られる。2枚のガラスの挟む角度をθ(≒0),0P=xとすると,左図より
y/x=d/l=tanθ≒θ(rad)
2光線の光路差は 2(xtanθ)=2x で ,Pでの反射光だけが位相変化するから,
=mλ 暗条件 ∴ x=
明条件 = (15-7)
干渉縞間隔は隣り合う mとm+1 のx の差だから
xm+1=×(m+1)λ,xm=×mλ ∴ x=xm+1−xm=λ= (等間隔)
ガラス間に屈折率n の物質を満たした場合λをλ/nと置き換えて,=である。この場合,n がガラスの屈折率より大ではQ点で,小の場合はPでだけ位相がπずれるだけで,一方だけが位相変化する点は上記と変わらないので明暗条件は変わらない。
また,上から光を入射し,下から見た場合は,Pで反射Qで反射の2回反射した光とQからの屈折光の干渉だから,反射光の場合と明暗条件が逆になる。
光くさびに干渉模様が見られることと同様にして,一枚のガラスを静水面に平行にしてわずかな間隔で置き,光を入射すると干渉模様が現れる。ガラスが平坦なら干渉縞は等間隔だが,そうでない場合等間隔にならずゆがみが現れるので,ガラス表面を磨く場合の点検に用いることができる。ガラス底面と水面との隙間が光くさびのガラスの隙間と等価である。
(6) ニュートンリング(Newton ring)
図のように,平板ガラス上に曲率半径の大きい平凸レンズを置き、上方から光を送ると、光の干渉によって接触点を中心として現れる同心円状の縞をニュートンリングという。平板ガラス上の上面Qと平凸レンズ下面Pの反射光の干渉によるものである。
平凸レンズの曲率半径をR,d,r (平凸レンズと平板ガラスの接点からの半径) を図の長さとすると,2光線の経路差は,図から
d=R−=
経路差が2d=で,2光線の経路は空気層だから,光路差も同じ。
平板ガラス上での反射だけ位相がπずれるから
明条件 = (m=0,±1,±2,±3・・・ )
暗条件 =mλ (15-8)
@ 同一干渉次数mでは,r は明線はr= だから
波長λ が大きい赤は外側,紫は内側になる。m=0でr=0 だから中心は暗線である。(右グラフ)
A 透過光による干渉では,屈折光とQで反射し(ここで位相がπずれる)平凸レンズ下面でふたたび反射
(ここで位相がπずれる)した光の干渉なので明暗の条件が反射光の場合と逆になる。つまり同心円の中心は明線である。
B ガラス間に屈折率n の物質を満たすと,波長がλ/nになるから,
r ' =である。
明暗条件は変わらない。
C 干渉次数mが1異なる,相隣り合う明(暗)線で囲まれたドーナツ状の面積は
π(rm+12−rm2)=πRλ 一定。
つまり内側も外側も面積は変わらない。
D 白色光の場合rが大きくなる(外側)と色光が見えない。これは薄膜干渉でdが大きい場合(「4 薄膜干渉」B)と同じである。単色光の場合は右上の写真でわかるようにrが大きくなっても干渉縞は鮮明に現れる。
ニュートンリングの実験から,平凸レンズの曲率半径R,光の波長λ,ガラス間に入れた物質の屈折率などを測定することができる。
15−3 光は横波(transverse wave)
光がヤングの実験などで波であることがわかったが,横波であることは,下図のように2枚の偏光板A,Bを通して上図では光が見えず,下図では偏光板Bを直交させると見える現象によって確かめられる。
電気石(Mg3Al6B3Si6O27(OH,F)4。三方晶系)などに自然光を入射すると,結晶方向に光だけ吸収率が小さく,それに垂直方向は吸収率が大になるので,一方向の振動方向を持った光つまり偏光になる。この光をさらにもう一枚結晶方向が垂直の電気石を置くと光は透過できなくなる。
偏光板は特定の振動面の光しか通さない。偏光板を,光を透過させる面をそろえると透過し,直交させると透過しないことがその理由である。偏光とは, 特定の方向だけ振動する光,および現象をいう。
偏光面が同方向なので交差している部分に光は透過する 偏光面が直交しているので光は透過せず暗くなる
自然光の偏光法
@ 反射法
反射光は偏光になるが,n=taniBのときに完全偏光になる。これをブリュースターの法則という。
左図において光が上方から入射し,反射,屈折する。
屈折率n= ∴ sin=cos
∴ iB+rB= のときに完全偏光になる。 (15-9)
例 n=1.5のガラスの場合, i≒57゚で完全偏光
A 複屈折(方解石,水晶,氷,電気石など一軸結晶。雲母,あられ石など二軸結晶)
方解石を紙の上に置く。方解石を紙面に平行に回転させると,文字が二重に見えたり一重になったりが交互に現れる。
(右図は紙面に引かれた2本の線が4本に見えている)。等軸結晶(岩塩,金剛石など)以外は結晶内に屈折した光は二つの方に別れる。この現象が複屈折である。
一軸結晶の場合,常光線はポラロイド(偏光板)を回転しても動かないが,異常光線は屈折の法則が成り立たない方向で屈折率が異なる。いずれの光も平面偏光である。複屈折はマリュス(E.L.Malus)によって調べられた。
二軸結晶では,二光ともに異常光線である。
色偏光・・・・・ 鉱物のように偏光板を通った偏光は一定の色を示す。これは常光線と異常光線の干渉の結果である。
光弾性・・・・・エポキシ樹脂,ガラス,セルロイドなどに,歪(ひずみ)を与え偏光板を通してみると力学的ひずみを可視化できる方法。
写真はエポキシ樹脂を使った例。左(円輪を上下に引き延ばした),中(棒を圧縮),右(横棒に曲げ歪みを与えた)
楕円偏光・・・楕円面に垂直に進む光をいう。光軸に平行に切った一軸結晶板に垂直に平面偏光を当て,常光線,異常光線の間に板の外で位相差が生じてできる。
円偏光・・・・・楕円偏光で位相差がπ/2になる場合をいう。
15−4 スペクトル(spectrum)
分散・・・・・真空中は波長λ によらず,c=fλ が成り立つが他の物質では波長によって光速が異なるために屈折率が異なる現象。
分散によってできる光の帯をスペクトルという。波長が長いほど屈折は小さい。 波長−屈折率のグラフ
スペクトルの種類
(1) 連続スペクトル 高温の固体や液体による。(波長の連続したもので太陽光,白熱電球の発する光など)
(2) (輝)線スペクトル 高温の気体,希薄気体の放電での原子の発光による。
白色光 H He C
また,連続スペクトルと線スペクトルを重ねると(白熱電球の前にナトリウムの炎を置く場合など),連続スペクトルに暗線スペクトルが重なって見える。これを吸収スペクトルという。例えば,NaのD線と連続スペクトルを重ねるとD線部分が黒く見える。分光分析に用いられる。太陽光に現れるフラウンホーファー線はH,He,Na,Mg,Caの吸収スペクトルである。
虹 分散,屈折によって現れる現象である。
右下の写真の虹は,主虹の上方に副虹が見える。主虹は上が赤,副虹は下が赤になっていることがわかる。
虹は空気中の水滴に光が入射し,水滴への屈折,反射を何回か繰り返し空気中に屈折して見られる現象 だが,屈折した光が分散し色が別れる。水滴内での反射の回数をp,偏角をδ,水滴への入射角をi,屈折 角をr とすると,p=1の場合は図よりδ=π−2(2r−i) となる。
p>1では,δ=2(i−r)+p(π−2r) の関係がある。δの極小値に対するi,r をi0,r0とすると
δ=2(i0−r0)+p(π−2r0)
ただし,雨滴の屈折率をn として
(15-10)
虹の特定の色が見える方向の日光となす角度θはθ=π−δで,主虹(p=1)では,赤色は42゚24',紫色は40゚32',副虹(p=2)では赤色は50゚24',紫色は53゚34'である。これが主虹と副虹で色の配列が異なる理由である(配列の違いは右図参照)。
虹が水滴によるものであることはギリシャ時代から知られていた。13世紀には屈折によるもの考えられていたが,主虹,副虹についてはデカルトらによって研究されていた。虹の色が分散によるものと示したのはニュートンで,「光学」で上記の角度θ についてもふれている。
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